2017年03月
島田忠臣
 島田忠臣は以前(2008.10)に紹介していますが、平安中期、今までは中国の詩をなぞって作詩をしていたのが、漢詩による自己表現が出来るようになった初めての人といってもよいのではないでしょうか。

惜桜花  桜花を惜しむ

宿昔猶枯木  宿昔 猶お 枯木のごとく
迎晨一半紅  晨(あした)を迎えて 一半紅なり
国香知有異  国香 異有るを知り
凡樹見無同  凡樹 同じき無きを見る
折欲妨人鏁  折るは 人を妨げて鏁(くさり)せんと欲し
含応禁鳥籠  含むは 応に鳥を禁(いさ)めて籠(こ)むべし
此花嫌早落  此の花の早く落つるを嫌う
争奈賂春風  争奈(いかん)せん 春風に賂(まいな)うことを


昨夜はまだ枯木のようだあったが、朝をむかえると五分咲きの紅である。
国のほまれの桜の花の香りは他と異なっていることは知っているし、並の木に同じものはない。
誰かが折ろうとするとくさりで繋いで邪魔をしたいし、鳥がついばもうとすると駕籠に閉じ込めたくなる。
この桜の花が早く落ちるのが嫌なのだが、さてどうやって春風に吹くのをやめてくれと賄賂を送ろうか。


秋日感懐

由来感思在秋天  由来(もとより)思いを感ずるは秋天に在り
多被当時節物牽  多くは当時の節物に牽(ひ)かる
第一傷心何処最  第一 心を傷ましむは 何れの処か最たる
竹風鳴葉月明前  竹風 葉を鳴らす 月明の前


見叩頭蟲自述寄宋先生(叩頭虫を見て自述し、宋先生に寄す)

値物叩頭号叩頭  物に値(あい)て叩頭す 叩頭(ぬかつきむし)と号す
毎思避害猶能脩  毎に害を避けんと思い 猶お能く脩む
須臾俯仰知心切  須臾 俯仰して 心の切なるを知り
良久搏来見血流  良(やや)久しくして搏来し 血の流るるを見る
応似乞降初伏罪  応に降らんことを乞い初めて罪に伏するに似たり
有如求活更従囚  活きんことを求めて更に囚(とらわれ)に従うが如き有り
寸蟲猶覚全生義  寸虫すら猶お生を全くするの義を覚る
六尺長身莫自由  六尺の長身 自由莫し


この虫は物に触れると額をつけるような仕草をするのでヌカツキムシと呼ばれる。いつもわざわいを避けようと思っていて、うまく我が身を保身している。
しばらく俯いたり見上げたりしているので、思い詰めた心を持っているのが判る。しばらくして人に打たれて血を流すのを見る。
ちょうど降伏することを乞うて罪に服するようであり、また生きることを求めて囚われるようでもある。
小さな虫でさえ生命を全うする道理を覚っている。しかし、六尺もの長身の私が窮屈で自由のないのはどうしたものだ。

参考文献
 王朝漢詩選 小島憲之編 岩波文庫また、梅の詩