2017年04月
海棠
 海棠はバラ科の花木で咲く時期といい形状といい桜と似ている。中国、特に蜀(四川省)では非常に愛好されているようである。蘇軾は蜀の出身であり、こよなく海棠を愛していくつもの詩を残している。一方、蜀に滞在した杜甫に海棠の詩がないのが古来不思議とされている。

蘇軾 海棠

東風嫋嫋泛崇光  東風 嫋嫋として崇光泛(ゆら)ぎ
香霧霏霏月転廊  香霧 霏霏として 月廊に転ず
只恐夜深花睡去  只だ恐る 夜の深(ふ)けて 花の睡り去らんことを
高焼銀燭照紅粧  高く銀燭を焼(もや)して 紅粧を照らさん
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春風がそよそよと吹く夜、海棠の高い梢に花の光が揺らめき、香しい霧が降り注ぐ頃、月影は廊下に移動する。
夜がふけて花が眠り込んでしまわないかとのみ心配で、銀の燭台を高く掲げて紅の装いを照らそう。

この詩は海棠を詠んだ名詩として、広く愛唱されています。「春宵一刻値千金・・・」と同想の詩ですね。


李清照 如夢令
 北宋末から南宋にかけての女性詩人。女性らしい細やかな情感にあふれた詞を作った。

昨夜雨疎風驟  昨夜 雨疎(まば)らに風驟(はや)かりし
濃睡不消残酒  濃睡 残酒を消さず
試問捲簾人   試みに簾を捲く人に問えば
却道海棠依旧  却って道(い)う 海棠は旧に依ると
知否 知否   知るや否や 知るや否や
応是緑肥紅痩  応是(おそらく)は緑肥え紅痩せたらんに


昨夜は雨混じりに風が強く吹いていた。ぐっすり眠ったのにまだ昨夜の酔いが残っている。
簾を巻き上げに来た者に尋ねてみると、海棠の花は昨日と変わっていませんと云う。
ほんとにほんとに判っていないのね。緑の葉は濃くなり、赤い花は褪せてきているのに。

 参考文献
  中国文学歳時記 春下 黒川洋一他編 同朋舎