2017年08月
蘇軾、山に登る
蘇軾は友人弟子が多く、彼らとの贈答・交遊の詩が多いのですが、一方自然を愛し、自然の美しさを詠った詩も多くあります。今回は山に登った詩を選んだのですが、山と言ってもたいして高い山ではなく、せいぜいがハイキング程度の山のようですね。どちらも公務の間に登ったようですので、勤務地近くの名勝のようです。
登玲瓏山 (玲瓏山に登る)
蘇軾38歳、杭州通判(副知事)の時の作。
何年僵立兩蒼龍, 何れの年よりか 僵立(きょうりつ)す 両蒼龍
瘦脊盤盤尚倚空。 瘦脊(そうせき)盤盤として 尚お空に倚る
翠浪舞翻紅罷亞, 翠浪 舞い翻える 紅の罷亞(はあ)
白雲穿破碧玲瓏。 白雲 穿ち破る 碧き玲瓏
三休亭上工延月, 三休亭上 工みに月を延(ひ)き
九折巖前巧貯風。 九折巌前 巧みに風を貯う
腳力盡時山更好, 脚力 尽くる時 山更に好し
莫將有限趁無窮。 有限を将って 無窮を趁(お)う莫れ
いったい何時の時から聳え立っているのだろうか、この二つの青い竜の姿をした岩山は? 痩せた背骨が重なり合って今も空に寄りかかっている。
風に舞い靡く緑野の中の紅に実る稲田。白雲を突き抜ける青い玲瓏山。
路上にある三休亭は巧みに月を引き入れて見せてくれ、また九折巌は上手に涼風を貯える。
脚力の続く限り歩いて立ち止まり、眺める山は美しい。この有限の力しか持たぬ人の身で限りない理想を追い求めようとはするまい。
玲瓏山:杭州郊外にある山(標高353m)
登雲龍山 (雲龍山に登る)
蘇軾43歳、徐州知事の時の作。
醉中走上黃茆岡, 醉中 走りて上る 黃茅岡
滿岡亂石如群羊。 満岡の乱石 群羊の如し
岡頭醉倒石作床, 岡頭 酔倒して 石 床と作る
仰看白雲天茫茫。 仰ぎて白雲を看れば 天茫茫
歌聲落谷秋風長, 歌声 谷に落ちて 秋風長し
路人舉首東南望, 路人 首を挙げて 東南を望み
拍手大笑使君狂。 手を拍って大笑す 使君狂せりと
酔っ払って黄茅岡に走り上がれば、岡の上いっぱいに散らばる石はまるで羊の群れのよう。
岡の上に酔って寝転ぶと石がベッドとなる。白雲を仰ぎ見ると天は茫茫として限りない。
私の歌声は谷間を下り秋風の中に長く響き渡る。
道行く人は頭を上げて東南の声の聞こえてくる方を眺め、私を見つけて、「知事さまは狂ってしまわれた」と手を拍って大笑いしている。
雲龍山:徐州の南にある山(岡?)、標高142m
黄茅岡:雲龍山の尾根続きにある岡
この詩は全句韻を踏んでおり、しかも七句という奇数句からなる七言古詩で非常に珍しい。