2017年10月
秋の詩
 
杜甫、蘇軾、陸游と定番ですが。それにしてもやはり杜甫の詩は格調が高いですね。

杜甫 客亭

秋窓猶曙色   秋窓 猶お曙色
落木更高風   落木 更に高風
日出寒山外   日は出づ 寒山の外
江流宿霧中   江は流る 宿霧の中
聖朝無棄物   聖朝 棄物無く
衰病已成翁   衰病 已に翁と成る
多少残生事   多少 残生の事
飄零任転蓬   飄零 転蓬に任す


秋の窓辺はようやく曙の色がさしてきた。散り落ちた黄葉が風に高く舞い上がる。
日が寒々とした山の向こうに上がって来、川が夜来の霧の中を流れゆく。
この聖代には棄てられるものはないはずだが、この身は衰え病がちですっかり爺さんになってしまった。
これからの余生にもう何ほどのことがあろうか。うらぶれた身は転がり行くヨモギのような旅の生活に任せるだけである。

蘇軾 書李世南所画秋景
(李世南画く所の秋景に書す)

野水参差落漲痕  野水 参差として 落漲の痕  
疎林欹倒出霜根  疎林 欹倒して 霜根を出す
扁舟一棹帰何処  扁舟 一棹 何れの処にか帰る
家在江南黄葉村  家は江南 黄葉の村に在り

野の水路は縦横に交じり合い、岸には水の満ち欠けの痕。疎らな林の木々は斜めに倒れかかり霜の降りた根が現われている。
小舟が一艘、何処に帰るのだろうか。目指す家は江南の黄葉に囲まれた村の中だ。

綺麗な詩ですが、掛け軸の絵に書き付けられた詩のせいかあまり生活感が感じられないですね。


陸游 仲秋書事

書生習気尽駆除  書生の習気 尽く駆除し
詩情酒興亦已無  酒興 詩情 亦た已に無し
底怪今朝親筆硯  底(なん)ぞ怪しまん 今朝 筆硯に親しむを
村郷来請辟蝗符  村郷 来り請こう 辟蝗(へきこう)の符

書生臭さはとっくに捨ててしまい、酒の喜びや詩心ももう今は無くなった。
今朝は筆硯を持ち出してきたのも怪しむには足りない。村人がやってきてイナゴ除けのお札を書いてくれと頼まれたからさ。

参考図書
 中国文学歳時記 秋 黒川洋一他編 同朋舎