2018年03月
欧陽脩の春
欧陽脩は北宋初めの大文人です。詩の他、文章、歴史学者、考古学者としても偉大な業績を残し、この時代の文化の指導者とも云える立場に立ちます。また、蘇軾、王安石など次の世代の指導者も引き立てます。政治家としても宰相として活躍します。
因みに彼の名は欧陽が姓(二字姓)で脩が名前です。
戯答元珍 (戯れに元珍に答う)
これは湖北省夷陵の県令に左遷されていた時、下僚の詩に答えたものである。
春風疑不到天涯 春風 疑うらくは天涯に到らざるかと
二月山城未見花 二月 山城 未だ花を見ず
残雪圧枝猶有橘 残雪 枝を圧して 猶橘有り
凍雷驚筍欲抽芽 凍雷 筍を驚かせて 芽を抽かんと欲す
夜聞帰雁生郷思 夜 帰雁を聞きて 郷思を生じ
病入新年感物華 病は新年に入りて 物華を感ず
曾是洛陽花下客 曾て是れ 洛陽花下の客
野芳雖晩不須嗟 野芳 晩(おそ)しと雖も嗟くを須いず
春風はこの天涯の地までは吹いて来ないのではないかしら。春ももう半ばというのに山の町では花も咲いていない。
残雪が枝を押し曲げて、まだミカンが残っている。寒空の雷が筍を驚かせて新芽を引っ張り出そうとしている。
夜になると北へ帰る雁の声を聴いては故郷への思いをつのらせ、病身で新年を迎えて自然の華やぎを感じる。
昔は都で花の王と言われる牡丹を愛でてきた身だ、野の花の開くのが遅いと言って歎くにも及ぶまい。
豊楽亭游春
四十一歳の時、左遷されていた安徽省の滁州での作。豊楽亭は彼が作ったあずまや。
緑樹交加山鳥啼 緑樹 交加して 山鳥啼き
晴風蕩漾落花飛 晴風 蕩漾として 落花飛ぶ
鳥歌花舞太守酔 鳥歌い 花舞いて 太守酔う
明日酒醒春已帰 明日 酒醒むれば 春已に帰らん
緑の木々は枝を茂らせ鳥が啼いている。春風がうららかにそよぎ落花が舞い散る。
鳥は歌い、花は舞い、太守の私は酔っ払う。明日になって酔いから醒めると春はもう已に去ってしまっているだろう。
別滁 (滁(じょ)に別る)
欧陽脩は中央から安徽省の滁州の刺史に左遷されますが、この詩は滁州を離任する時に作られた詩です。
花光濃爛柳軽明 花光は濃爛 柳は軽明
酌酒花前送我行 酒を花前に酌んで 我が行くを送る
我亦且如常日酔 我は亦た且(しばら)く常日の如く酔わん
莫教弦管作離声 弦管をして離声を作さしむること莫かれ
花は濃く艶やかに開き、柳は軽快になびく。みんな花の下で酒を飲んで私を送ってくれる。
私は暫くは普段のように飲んで酔いたいので、どうか琴や笛で悲しい別れの曲を奏でないで下さい。
画眉鳥
百囀千声随意移 百囀 千声 随意に移り
山花紅紫樹高低 山花は紅紫 樹は高低
始知鎖向金籠聴 始て知る金籠に鎖されて聴くは
不及林間自在啼 林間に自在に啼くに及ばざるを
画眉鳥は何百何千回と声を響かせて気儘に飛び移る。山の花々の紅や紫に、そして木々の高いところや低いところへと。
曾て聞いた籠の中に閉じ込められた囀りは林の中で自由に啼いている声に及ばないと此の地で初めて知った。
画眉鳥は鳴き声が美しいので、捕らわれ籠に入れて飼われている鳥です。日本でも中国から輸入されましたが、籠から逃げ出した鳥が野生化して特定外来生物として問題視されているようです。美しい声なのですが、かなり大きい声でひっきりなしに啼き、日本人にはうるさいと感じられるようです。しかもいろんな鳥の声をまねるとか。
参考図書
宋詩選注 銭鍾書著 東洋文庫 平凡社
漢詩をよむ 春の詩100選 石川忠久 NHKライブラリー