2018年07月
螢
今月はホタルを詠った詩を集めてみました。ホタルは俳句の季語では仲夏のようですが、中国では秋のようですね。ホタルの種類が違うのでしょうか。
杜甫 「螢火」
幸因腐草出 幸いに腐草に因りて出づ
敢近太陽飛 敢えて太陽に近づいて飛ばんや
未足臨書巻 未だ書巻に臨むに足らず
時能点客衣 時に能く客衣に点ず
随風隔幔小 風に随いて幔を隔てて小さく
帯雨傍林微 雨を帯びて林に傍いて微かなり
十月清霜重 十月 清霜重し
飄零何処帰 飄零して何処にか帰る
螢は腐った草から生まれるのだから、どうして太陽が照っている時に飛ぼうか。
書巻を読むには足らず、旅人の衣に付いて光を点ずる。
風に従ってカーテンを隔てて小さく光り、雨に濡れては林の方で微かに光っている。
十月になって清らかな霜が重たく降りてくるようになれば、うらぶれて何処に身を落ち着けるのだ。
元稹 「夜坐」
雨滞更愁南瘴毒 雨滞りて 更に愁う 南の瘴毒
月明兼喜北風涼 月明 兼ねて喜ぶ 北風の涼しきを
古城楼影横空館 古城の楼影 空館に横たわり
湿地虫声繞暗廊 湿地の虫声 暗廊を繞る
螢火乱飛秋已近 螢火 乱れ飛んで 秋已に近く
星辰早没夜初長 星辰 早く没して 夜初めて長し
孩提万里何時見 孩提 万里 何れの時か見ん
狼藉家書臥満牀 狼藉の家書 臥して牀に満つ
尾聯は
幼子は万里の遠くにいる、何時になったら会えるのやら、家族からの手紙は乱れ散って床一杯になっている。
菅茶山 「螢七首」
其一
満渓螢火乱昏黄 満渓の蛍火 昏黄に乱る
透竹穿藤各競光 竹に透かし藤を穿ちて 各々 光を競う
吟歩不愁還入夜 吟歩して愁えず 還た夜に入るを
借将余照渡山梁 余照を借り将って山梁を渡る
谷川いっぱいの蛍が黄昏に乱舞している。竹の葉に透けとおり藤をくぐりぬけ各々光を競っている。
詩を吟じながら歩いていて夜になっても心配はいらない。蛍の余った明かりを借りて谷川の橋を渡ればいいのだから。
其三
連夜收來滿練嚢 連夜 収め来って練嚢に満つ
柳陰懸照納凉場 柳陰 懸けて照らす納涼場
童言螢火亦眞火 童は言う蛍火も亦た真火なり
揺扇將燃加手陽 扇を揺るがせば燃えんとし 手を加うれば暖かなりと
毎夜蛍を捕らえて練り絹の袋一杯にし、柳の木陰に懸けて納涼の場を照らす。
子どもは言う「蛍の火もまた本当の火だよ。扇であおぐと燃えそうになり、手をかざせば暖かいよ」と。
参考図書
中国文学歳時記 秋 黒川洋一他編 同朋舎
和漢朗詠集 菅野禮行校注 日本古典文学全集 小学館
福山市ホームページ 菅茶山記念館