2018年10月
館柳湾の秋
館柳湾は化政時代の詩人で、新潟の商家に生まれ、幕府の下級役人として農政に携わり一生を終わる。性格も温雅で、穏やかな詩風はその性格から滲み出ているようである。
館柳湾 「庚寅夏初省墓于新潟滞留数月九月十八日帰目白園居翌日家宴児孫輩咸集小酔醺然口占五絶句」 (庚寅の夏初、新潟に省墓。滞留数月、九月十八日、目白の園居に帰る。翌日家宴、児孫輩、咸集る。小酔し、醺然として五絶句を口占す)
其一
閑游半載酔鱸郷 閑游 半載 鱸郷に酔い
帰到山園菊尚芳 帰り到れば 山園 菊なお芳し
老婦不言相待久 老婦は言わず 相い待つこと久しと
造糕沽酒展重陽 糕(こう)を造り酒を沽いて 重陽を展ぶ
ぶらぶらと半年ほど故郷の新潟で遊んで、帰ってくると我が家の庭には菊がまだ芳しく咲いている。
老妻は長いこと待っていたなどとは言わずに、蒸し団子を作って、酒を買い重陽の節句の準備をしている。
其二
散歩秋園弄晩晴 秋園を散歩すれば 晩晴を弄し
野花山鳥慰我情 野花 山鳥 我情を慰む
喜看堂北石榴樹 喜び看る 堂北の石榴樹
裊裊新枝結子成 裊裊(じょうじょう)たる新枝 子を結びて成る
秋の我が家の庭を散歩すると、野の花や山の鳥が夕暮れの晴れた空を飾っている。
息子の嫁の居室の北にある石榴の木、新しい枝がしなやかに伸びてそこに実がなっているのを嬉しく眺める。
(息子の嫁が身ごもっているのを歌っている)
参考図書 日本詩人選集 館 柳湾 鈴木 瑞枝 研文出版