2018年11月

李賀の秋
 李賀の詩は何度か紹介していますが(1999.11、2002.12)、絶望の中で歌った詩が多く、実に陰気ですね。鬼才と言われるように、まさに地中から這い出てきたような詩人ですね。
 荒井健先生の和訳が素晴らしいので、ほとんど写させてもらいました。

感諷其三

南山何其悲  南山 何ぞ其れ悲しき
鬼雨灑空草  鬼雨 空草に灑ぐ
長安夜半秋  長安 夜半の秋
風前幾人老  風前 幾人か老ゆ
低迷黄昏径  低迷す 黄昏の径
裊裊青櫟道  裊裊(じょうじょう)たり 青櫟の道
月午樹無影  月午 樹に影無く
一山唯白暁  一山 唯白暁
漆炬迎新人  漆炬(しっきょ) 新人を迎え
幽壙螢擾擾  幽壙 螢擾擾(じょうじょう)


終南山はなぜこんなにも悲しいのか。亡霊のむせび泣きのような雨が草むらに降り注ぐ。長安の夜更け。秋風に幾人が老いて命を失っているのだろう。
ほの暗い黄昏の小径。ゆらゆら揺れる青いクヌギの並木。
月が中天にかかり木に影は無く、山はすべて青白い暁の中。
鬼火が死者の花嫁を迎え、墓穴には螢が乱れ飛ぶ。


崇義里 滞雨

落莫誰家子  落莫たり誰が家の子
来感長安秋  来りて長安の秋を感ずるは
壮年抱羇恨  壮年 羇恨を抱き
夢泣生白頭  夢に泣く 白頭の生ずるを
痩馬秣敗草  痩馬 敗草を秣(まぐさか)い)
雨沫飄寒溝  雨沫 寒溝に飄る
南宮古簾暗  南宮 古簾暗く
湿景伝籤籌  湿景 籤籌(せんちゅう)を伝う
家山道千里  家山 道千里
雲脚天東頭  雲脚 天の東頭
憂眠枕剣匣  憂眠 剣匣(けんこう)を枕とし
客帳夢封侯  客帳 封侯を夢む


何という淋しさ、何処の人間だ。わざわざやってきて長安の秋を悲しむのは。
意気盛んな年頃に旅のやるせなさを感じ、白髪頭になった夢を見ては泣く。
やせ馬に枯れ草を与えていると、雨のしぶきが寒々とした溝に飛び散る。
古い簾の中へ尚書省の辺りから、ジメジメとした空気を通して時刻を知らす音が伝わってくる。
故郷の山々は千里も離れ、雲の低く垂れた地平線の東だ。
剣を入れる箱を枕としての憂鬱な眠り、宿のカーテンの陰で未来の地位を夢見る。

参考図書
中国詩人選集 李賀 荒井健注 岩波書店