2009年03月

 

呉偉業

 呉偉業(号を梅村)は明の滅亡と清朝への交代の時期を生き抜いた詩人です。23歳の若さで進士に及第し(第二位)、皇帝の寵愛を受け、官僚として洋々たる前途を約束されます。また、詩人としての名も天下に轟きます。しかし、36歳の時、明は滅亡しました。知識人として名高かった梅村を清朝が見過ごすはずもなく、彼は清朝に仕えることを余儀なくされます。中国の伝統的な考えでは二つの朝廷につかえることは弐臣と呼ばれ、大変な軽蔑の対象となりました。わずか3年の仕官でしたが、これが彼の一生の悔いとなり、以後明朝の滅亡を悼む詩を作り続けます。30年後、63歳で死ぬ時、墓碑銘を作ることを許さず、ただ「詩人呉梅村之墓」と刻ませたとのことです。

 

梅村

 明が滅亡する直前、呉偉業は故郷の江蘇省の梅村に別荘を買った。そこでののんびりした生活を夢見て作られた詩であるが、時代は彼に平安な生涯を送ることを許さなかった。

 

枳籬茅舎掩蒼苔   枳籬(きり) 茅舎 蒼苔掩う

乞竹分花手自栽   竹を乞い 花を分ち 手自ら栽う

不好詣人貪客過   人に詣(いた)るを好まざるも 客の過るを貪り

慣遅作答愛書来   答を作すの遅きに慣るるも 書の来るを愛す

閑窓聴雨攤詩巻   閑窓 雨を聴きて 詩巻を攤(ひろ)げ

独樹看雲上嘯台   独樹 雲を看て 嘯台に上る

桑落酒香盧橘美   桑落の酒は香しくして 盧橘美なり

釣船斜繋草堂開   釣船 斜に繋げば 草堂開く

 

カラタチの垣、茅葺きの家は青い苔に掩われている。竹をもらったり、花を株分けして自分で植えた。

人を訪問するのは嫌いだが、人が尋ねてくれば大喜び、返事を出すのは遅いのに手紙をもらうのは大好きだ。

静かな窓に雨の音を聴きながら、詩集を並べてひろげ、ポツンと立っている木にかかる雲を眺めながら高台に上る。

桑落酒(桑の実の落ちる頃醸した名酒)は芳しく、ビワは美味しい。釣船が斜めに繋がれたところに、草堂の門が開かれている。

 

 

送胡彦遠南還河渚 (胡彦遠の南のかた河渚に還るを送る)

 友人の胡彦遠は浙江省に隠棲していた詩人であるが、生計の道を得ようと北京にやってきたが、失意のまま故郷に帰ることになったのを慰めた詩。

 異民族の清朝の支配下での知識人の不安な様子が窺える。

 

匹馬春風返故林   匹馬 春風 故林に返る

松杉書屋昼陰陰   松杉 書屋 昼陰陰

猿愁客倦晨投果   猿は客の倦むを愁いて 晨に果を投じ

鶴喜人帰夜聴琴   鶴は人の帰るを喜びて 夜 琴を聴く

我有田廬難共隠   我に田廬有れども共に隠れ難く

君今朋友独何心   君今 朋友 独り何の心ぞ

還家早便更名姓   家に還れば 早く便ち名姓を更えよ

只恐青山尚未深   只恐る 青山の尚未だ深からざるを

 

馬に乗って春風の下故郷に帰れば、松や杉に囲まれた書斎は昼もうす暗い。

猿は人が退屈しているのではと心配して、朝から木の実を投げにやってくるし、鶴は人が帰ってきたのを喜んで夜には琴の音を聞きにやって来る。

私には少しばかりの田畑と家があるが。君と一緒に隠者になるのは難しい。何の役にも立たない私に対して君は親友としてどんな気持がするだろうか。

家に帰ったら、すぐに名前を変えたほうがいい。君の隠れ住む青山がまだ奥深くなくて、災いがやってくるのが心配だ。

参考図書

 呉偉業 中国詩人選集二集 福本雅一注 岩波書店


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