2009年05月 初夏の詩
王建 「雨過山村」
中唐の詩人。775年の進士ですので、杜甫よりは少し後の時代に属します。彼は働く人々の生活に題材を取った詩を多く作っているそうです。
雨裏鶏鳴一両家 雨裏 鶏鳴 一両家
竹渓村路板橋斜 竹渓 村路 板橋斜めなり
婦姑相伴浴蚕去 婦姑相伴いて 浴蚕に去く
閑着中庭梔子花 閑着たり 中庭 梔子の花
雨の中、鶏が鳴いている一二軒の農家、竹林を流れる谷に板橋が斜めにかかっている。
嫁さんとお姑さん(村の女性たち)が連れだって浴蚕の作業に出かけていく。家の中庭には物静かにクチナシの花が咲いている。
浴蚕:蚕のタマゴを水につけて、弱い種を淘汰すること
王安石 「初夏即事」
石梁茅屋有彎碕 石梁 茅屋 彎碕(わんき)有り
流水濺濺度両陂 流水濺濺(せんせん)として 両陂を度る
晴日暖風生麦気 晴日 暖風 麦気を生じ
緑陰幽草勝花時 緑陰 幽草 花時に勝る
石橋、茅葺きの家、曲がりくねった川。両側の堤の間をさらさらと水が流れている。
晴れた空、暖かい風に麦の香が立ち上る。緑の木陰、生い茂る草は春の花にもまさる風情だ。
陸游 「新夏感事」
陸游32歳のときの詩。政界の大ボス秦檜が死んで、言論の路が開かれたことを喜ぶ詩。
百花過尽緑陰成 百花 過ぎ尽して緑陰成り
漠漠炉香睡晩晴 漠漠たる炉香 晩晴に睡る
病起兼旬疎把酒 病より起きて 兼旬 酒を把ること疎(まれ)に
山深四月始聞鶯 山深くして 四月 始めて鶯を聞く
近伝下詔通言路 近ごろ伝う 詔を下して 言路を通ずと
已卜余年見太平 已に卜す 余年 太平を見んことを
聖主不忘初政美 聖主 忘れず 初政の美
小儒唯有涕縦横 小儒 唯 涕の縦横たる有り
花の季節は終わり、緑の木陰が出来上がり、立ちこめる炉の香の中、夕晴れに居眠りする。病み上がりでまだ二十日ばかり、酒はろくに飲んでいない。ここは山深く四月になってようやくウグイスが鳴き出す。
近頃伝え聞くのに、みことのりが下って言論の路が通じたそうだ。これで生きている内に太平の世にあえることが出来よう。
陛下は昔のよき時代の政治をお忘れではなかった。私のような木っ端儒者は有難さに涙が流れるばかりだ。
参考書籍
漢詩歳時記 夏 黒川洋一他編 同朋舎
中国詩人選集二集 王安石 清水茂注 岩波書店
陸游詩選 一海知義編 岩波文庫