2009年06月 山の生活

 

呉偉業 「口占」

 

欲買渓山不用銭  渓山を買わんと欲して 銭を用いず

倦来高枕白雲辺  倦み来って 枕を高うす 白雲の辺

吾生此外無他願  吾が生は 此の外 他の願い無し

飲谷棲丘二十年  谷に飲み丘に棲む 二十年

 

谷川や山を買おうと金銭を費やすことはない。退屈になったら、枕を高くして白雲のただよう辺りに横になればいいだけのことだ。

私の人生でそれ以外に望みはない。谷川の水を飲み、丘に住むこの二十年が最良だ。

 

 

山梨稲川 「采薇」

 化政時代、駿河の国の詩人、音韻学者。実家は豪農である。

 

青山紫蕨正如拳  青山の紫蕨 正に拳の如し

采采柔荑踏断烟  荑を采采して 断烟を踏む

山遶路迷不覚遠  山遶り 路迷いて 遠きを覚えず

貪看処処野花鮮  貪り看る 処処 野花の鮮やかなるを

 

新緑の山では紫色のワラビの拳のように大きいのが出ている。軟らかなのを採りながら、きれぎれにただよう靄の中を進む。

山をめぐって、道に迷いそうになるほど遠くまで来てしまった。しかし、所々に咲いている野の花の鮮やかなのを貪るように看ている。

 

 

菅茶山 「樵父」

 

崖路朝踏紫嵐攀  崖路 朝に紫嵐を踏んで攀じ

澗橋夜担明月還  澗橋 夜に明月を担いて還る

石歯樹根平於砥  石歯 樹根 砥よりも平にして

不信世途有険艱  信ぜず 世途に険艱有るを

寒林亦自足友生  寒林 亦自ら 友生足(おお)く

前峰後峰響丁丁  前峰 後峰 響丁丁

束薪兌得一壜酒  束薪 兌(か)え得たり 一壜の酒

環坐松陰笑相傾  松陰に環坐して 笑いて相傾く

 

朝靄の中、崖の路を登ってゆき、夜には月の光を背に受けて谷川の橋を渡って帰る。

岩の出っぱりや木の根が出ている道も、砥石よりも平に感じ、人生に難しいことなど有るとは信じない。

ひっそりとした林にも仲間は多くいて、前の峰からも後の峰からも、斧の響きが丁丁と聞こえてくる。

一束の薪を売って一瓶の酒に換え、松の木陰に輪になって座り笑いながら酒を酌み交わす。

 

参考書籍

 漢詩名句辞典 米山寅太郎・鎌田正著 大修館書店

 田園漢詩選 池澤一郎 農文協


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