2009年06月 山の生活

 

遺跡に立つ

 古い故事の地に立って、昔と現在を比較して詩を作るのは詩人の常套手段でどんな詩人でもたくさん作っていると思われます。私は劉禹錫の「烏衣巷」が好きなのですがこれは既に紹介済みでした(2008.05)。

 

李白 「蘇台覧古」

 春秋時代の呉王夫差の宮殿跡姑蘇台に立って詠った詩。

 

旧苑荒台楊柳新  旧苑 荒台 楊柳新たなり

菱歌清唱不勝春  菱歌の清唱 春に勝えず

只今惟有西江月  只今 惟だ西江の月有るのみ 

曽照呉王宮裏人  曽て照らす 呉王宮裏の人

 

古い庭、荒れた高台に柳が青々と芽吹いている。菱の実を採りながら民謡を歌っている清らかな声を聞くと春の思いにたえきれない。

当時のものとて、今はただ西の川に映る月のみである。曾ては呉王夫差の華やかな宮殿の人々を照らしていたのであろうが。

 

 

杜甫 「詠懐古跡 五首 其一」

 杜甫は三峡の州(今の奉節)に二年ほど滞在したが、この近くには劉備、諸葛孔明の古祠、下流の江陵辺りには楚の宋玉、漢の王昭君、梁の庾信ゆかりの古跡があった。第一首は庾信と自分の境遇を重ねて読んだ詩である。庾信については200312月に取上げています。

 

支離東北風塵際  支離す 東北風塵の際

漂泊西南天地間  漂泊す 西南天地の間

三峡楼台淹日月  三峡の楼台 日月淹(ひさ)しく

五渓衣服共雲山  五渓の衣服 雲山を共にす

羯胡事主終無頼  羯胡 主に事(つか)えて 終に無頼

詞客哀時且未還  詞客 時を哀しんで 且つ未だ還らず

庾信生平最蕭瑟  庾信 生平 最も蕭瑟

暮年詩賦動江関  暮年 詩賦 江関を動かす

 

私は此の地から東北にある戦乱の中の故郷を離れ、今西南にある三峡の辺りを漂泊している。

三峡の楼台に久しくとどまり、五渓の蕃族と深い山中に一緒に暮らす身の上だ。

北方の胡(羯胡)は庾信の故国を滅ぼしてしまい、詩人は時節を悲しむばかりで帰国することは出来ない(自分も同様に北方の胡の反乱で帰郷することは出来ない)。

梁の庾信は晩年詩賦で名を江南に轟かせたが、その平生はどんなにか寂しいものであったことか。

 

菅茶山 「宿生田」

 神戸の生田の地は楠木正成の戦死の地、湊川に近く、茶山はここで往時に思いをやりこの詩を作ったのでしょう。茶山の時代、現在の湊川神社は創建されてなく、ただ水戸光圀の創建になる石碑が立つのみだったでしょう。

 

千載恩讐両不存  千載の恩讐 両つながら存せず

風雲長為弔忠魂  風雲 長(とこしえ)に為に忠魂を弔う

客窓一夜聴松籟  客窓 一夜 松籟を聴く

月暗楠公墓畔村  月は暗し 楠公墓畔の村

 

参考文献

 漢詩名句辞典 鎌田正・米山寅太郎著 大修館書店

 唐詩三百首 目加田誠訳注 東洋文庫 平凡社

 日本百人一詩 土屋久泰著 砂子屋書房

 


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