2009年9月 秋雨

 

杜牧 「題宣州開元寺水閣」

 

六朝文物草連空  六朝の文物 草空に連なり

澹雲閑今古同  澹(やす)らかに雲閑かにして 今古同じ

鳥去鳥来山色裏  鳥去り鳥来る 山色の裏

人歌人哭水声中  人歌い人哭す 水声の中

深秋簾幕千家雨  深秋 簾幕 千家の雨

落日楼台一笛風  落日 楼台 一笛の風

惆悵無因見范蠡  惆悵す 范蠡を見るに因(よし)無きを

参差煙樹五湖東  参差たる煙樹 五湖の東

 

六朝の華麗な文化が栄えたこの江南の地も、今は草が天に連なるばかりに生い茂っているが、穏やかな空、のどかな雲は昔と変わらぬ姿である。

鳥は昔よりこの山色の中を行き来し、人々は渓流の水音のなかで喜びに歌い、悲しみに泣いてきたのだ。

深まり行く秋、簾を下ろした無数の家々に降る雨、夕陽の中遠くの楼台から微かに笛の音を伝える風。

悲しいことに、春秋時代この地で活躍し地位も名誉も捨てて消え去った范蠡に会うすべはない。遙か東の五湖(太湖)の方を眺めてもモヤに霞む木々が高く低く連なっているばかりである。

 

 

翁巻 「秋懐」

 

不管秋天陰復晴  管せず 秋天 陰復た晴

秋懐何処不凄清  秋懐 何れの処か 凄清ならざらん

江城幾夜無佳月  江城 幾夜 佳月無きも

亦有新詩対雨成  亦た新詩の雨に対して成る有り

 

秋の空が晴れでも曇りでも関係ない。秋の思いはどんなときでも凄寥な清らかさを持っているのだ。

この川辺の町ではもう幾晩も綺麗な月は見られていないが、それでも雨を詠った新しい詩が出来た。

 

 

柏木如亭 「雨夜」

 この詩の出だしは趙師秀 「約客」(199907紹介)から採ったものでしょう。

 

有約不来宵悄然  約有るも来らず 宵悄然たり

幽窓月暗雨如煙  幽窓 月暗く 雨煙の如し

残書掩罷灯吹滅  残書 掩い罷めて 灯吹き滅し

点滴声中独自眠  点滴声中 独り自ら眠る

 

約束していた客が来ないのでしょんぼりと宵を過ごしている。ひっそりとした窓辺には月の光は薄暗く、雨が煙のように立ちこめている。

読み残しの本を閉じて、灯火を吹き消して、ぽたぽたと雨の落ちる音を聴きながら一人で床につく。


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