2019年02月

春の訪れ

元好問 春日
 久しぶりの元好問です。27歳の時(まだ進士に合格していない)、金国はモンゴルの侵攻を受け、一家で南の地に逃避します。そこで立春を迎えて詠んだ詩です。

里社春盤巧欲争  里社の春盤 巧みを争わんと欲し
裁紅暈碧助春情  裁紅暈碧(うんぺき) 春情を助く
忽驚此日仍為客  忽ち驚く 此の日 仍(なお)客と為るを
却想当年似隔生  却って想う 当年の生を隔つるに似たるを
貧裏韲塩憐節物  貧裏の韲塩(せいえん) 節物を憐れみ
乱来歌吹失歓声  乱来の歌吹 歓声を失す
南州剰有還郷伴  南州 剰(な)お 郷に還るの伴有るも
戎馬何時道路清  戎馬 何れの時か 道路清からん


村里の立春のおせち料理は腕を競うように紅や緑が鮮やかで春の風情をかきたてる。
ふと気付くとこのめでたい日にもなお旅の身であり、振り返ってみれば郷里の日々はもう前世のことのように思われる。
貧しい中での塩漬けの野菜に季節の味を懐かしみ、戦乱になってからは音曲にさえ喜びの声が失われた。
南国に逃げてきて一緒に郷里に帰るともがらには事欠かぬが、戦乱の中何時になったら道路が通れるようになるのだろうか。


館柳湾 春日雑句

昨日猶寒南岸柳  昨日 猶寒し 南岸の柳
今朝已暖北枝梅  今朝 已に暖かし 北枝の梅
吹晴送雨互相報  晴を吹き 雨を送りて 互いに相報ず
信是春風踏脚来  信に是れ 春風 脚を踏みて来たる

後半は 暖かさと寒さが互いにやり合いながら、そのうちに春風が足踏みしながらやって来る。

参考図書
 中国文学歳時記(春・下) 黒川洋一他編 同朋社
 日本漢詩人選集 館柳湾 鈴木瑞枝著 研文出版