2019年10月
曹操 短歌行
今月は魏の武帝・曹操の楽府体の詩を紹介します。三国を統一した傑出した武人でありますが詩人としても優れたものを残しています。息子の曹丕、曹植と共に三曹と呼ばれます。
私にとってこの詩の解釈がとても歯が立たないのですが、参考図書によって解説しました。曹操が皇帝として優秀な人材を得たいとの思いが詠われているようです。
出だしの二句が特に有名ですね。
對酒當歌 酒に対して当に歌うべし
人生幾何 人生 幾何(いくばく)ぞ
譬如朝露 譬えば朝露の如し
去日苦多 去りし日は苦(はなは)だ多し
酒を前にしてさあ歌おう。人生は長くはないぞ。
たとえて云うならば朝露のようなもの。過ぎ去った日が多くなるばかりさ。
慨當以慷 慨して当に以って慷(こう)すべし
憂思難忘 憂思 忘れ難し
何以解憂 何を以って憂いを解かん
唯有杜康 唯だ杜康有るのみ
そのことを思うと意気は昂ぶってくる。憂き思いは払いがたい。
何でこの憂いを消し去ることが出来ようか。ただ酒(杜康:最初に酒を造った人)があるのみだ。
青青子衿 青青たる子が衿
悠悠我心 悠悠たり 我が心
但為君故 但だ君が為の故に
沈吟至今 沈吟して今に至る
青い襟の青年よ(周代の学生の服装)。私は君たちを長く思い続ける。
君たちを思って、今まで今まで深い感情を歌ってきたのだ。
呦呦鹿鳴 呦呦(ゆうゆう)と鹿は鳴き
食野之苹 野の苹(へい)を食らう
我有嘉賓 我に嘉賓有り
鼓瑟吹笙 瑟を鼓して笙を吹かん
ユウユウと鳴いて鹿が仲間を呼び、野原で草を食べている。
私には善き賓客がいる。琴を奏で笛を吹いてもてなそう。
(詩経小雅・鹿鳴をそのまま引用)
明明如月 明明として月の如し
何時可掇 何れ時か掇(と)るべけん
憂從中來 憂いは中より來りて
不可斷絶 断絶すべからず
我が思いは明るい月のようだが、いつもその光を掬い取ることは出来ない。
憂き思いは心の底から沸き上がり、断ち切ることは出来ない。
越陌度阡 陌を越え 阡を度(わた)る
枉用相存 枉(ま)げて用(も)って相い存(と)う
契闊談讌 契闊(けっかつ) 談讌(だんえん)し
心念舊恩 心に旧恩を念(おも)う
遠くからはるばると、わざわざ私を訪ねてくれる人がある。
堅い契りを交わして楽しく語らおう。かつての誼を思い出しながら。
月明星稀 月明らかに星稀なり
烏鵲南飛 烏鵲(うじゃく) 南に飛ぶ
繞樹三匝 樹を繞ること三匝(さんそう)
何枝可依 何れの枝にか依るべき
月は明らかで星はまばら。カササギは南に飛んで行く。
木を何度も廻って、どの枝に止まろうかと迷う。
山不厭高 山は高きを厭わず
海不厭深 海は深きを厭わず
周公吐哺 周公 哺(ほ)を吐き
天下歸心 天下 心を帰す
山は土を拒まぬため高く、海は水を拒まないために深い。
周公は食べているものを吐き出してまでして人に面会し、そのために天下の人々は心を寄せたのだ。
参考図書
文選 詩編(四) 川合康三他訳注 岩波文庫