2020年01月
蘇軾 上元夜 上元の夜
前年侍玉輦 前年 玉輦に侍す
端門万枝灯 端門には 万枝の灯
璧月掛罘罳 璧月 罘罳(ふし)に掛かり
珠星綴觚稜 珠星 觚稜(こりょう)に綴る
去年中山府 去年 中山府
老病亦宵興 老病 亦た宵に興(お)く
牙旗穿夜市 牙旗 夜市を穿ち
鉄馬響春氷 鉄馬 春氷に響く
今年江海上 今年 江海の上(ほとり)
雲房寄山僧 雲房 山僧に寄す
亦復挙膏火 亦復(また) 膏火を挙げ
松間見層層 松間に層層たるを見る
散策桄榔林 桄榔(こうろう)の林に散策すれば
林疎月鬅鬙 林は疎にして 月鬅鬙(ほうそう)たり
使君置酒罷 使君 置酒して罷(や)み
簫鼓転松陵 簫鼓 松陵に転ず
狂生来索酒 狂生 来りて酒を索め
一挙輒数升 一挙 輒(すなわ)ち数升
浩歌出門去 浩歌して 門を出でて去る
我亦帰瞢騰 我も亦た瞢騰(ぼうとう)の帰す
一昨年は礼部尚書として天子のお側に侍り、宣徳門の楼上の宴で数知れぬ灯籠を眺めた。
璧玉のような月が楼門に掛かり、真珠のような星々が宮殿の屋根につらなっていた。
去年は知事として中山府(河北省定州)にいて、老病の身であったがこの夜は起きていた。
軍隊の旗をおし立てて夜の街を練り歩き、軍馬の蹄の音が春の氷に響いたものだった。
今年は遠く南海のほとりに流されて、雲なびく山寺の僧坊に身を寄せている。
しかしここでも上元の灯火がともされ、松林の間から重なり合っているのが見える。
ヤシ(桄榔)の林を散策すれば、まばらな林は乱れ髪のような月影を落とす。
知事の招宴も終わり、楽団も松の丘の彼方へと去った。
そこへ気儘な変わり者がやって来て酒をねだり、一気に数升の酒を飲んでしまった。
そして大声で歌いながら去って行き、私もまた酔いが回って朦朧としてきた。
上元は旧暦一月十五日で賑やかに御祝いが行われた。特に夜は元宵と呼ばれ特に賑やかであった。
この詩は蘇軾が広東省恵州に流されている時のもの。2年前、礼部尚書の時に作った詩、上元侍宴楼上示同列は2008.01を参照して下さい。
蘇軾がどのような境遇にいても、悠悠自適の心境にいることがよく示されています。
参考図書
蘇東坡詩選 小川環樹、山本和義選訳 岩波文庫