2021年1月

老年の新年

白居易 喜入新年自詠 時七十一 (新年に入るを喜び自ら詠ず)

白鬚如雪五朝臣  白鬚 雪の如し 五朝の臣
又入新正第七旬  又 新正 第七旬に入る
老過占他藍尾酒  老い過ぎて 他の藍尾の酒を占め
病餘収得到頭身  病余 収め得たり 頭に到る身
銷磨歳月成高位  歳月を銷磨して 高位を成す
比類時流是幸人  時流に比類すれば 是れ幸人
大暦年中騎竹馬  大暦年中 竹馬に騎りしは
幾人見得会昌春  幾人か見得えん 会昌の春


白い髯は雪のようで五代の皇帝に仕えた臣下である。また七十回目の新年を迎えた。
老人となって祝いの廻し飲みの酒は締めに頂き、病気の後は官界から完全に身を引くことが出来た。
長い年月を頑張って高い位に就いた、世間の人に較べたら幸運だったと云えよう。
大暦年間の幼年時代に一緒に竹馬で遊んだ者のうちで、何人がこの会昌の御代の春を見ることが出来ているだろうか。


呉偉業 庚寅元旦試筆

 己丑除夕。夢杏花盛開。桃李数株。次第欲放。予登小閣。臨曲池。有人索杏花詩。彷彿禁中應制。醒来追思陳事。去予登第之歳。已二十年矣。
 (己丑の除夕。杏花盛んに開き、桃李数株、次第に放(ひら)かんと欲す、予小閣に登り、曲池に臨む、人有りて杏花の詩を索(もと)むるを夢む。禁中の應制に彷彿たり。醒め来りて陳事を追思すれば、予が登第の歳を去ること、已に二十年なり。)

二十年前供奉官  二十年前 供奉の官
而今白髪老江干  而今 白髪 江干に老ゆ
青樽酒尽貪孤夢  青樽 酒尽きて 孤夢を貪り
紅杏花開満禁闌  紅杏 花開いて 禁闌に満つ
西苑楼台遺事有  西苑の楼台 遺事有り
北門詩賦旧遊難  北門の詩賦 旧遊難し
高涼橋畔春如許  高涼橋畔 春 許(かく)の如し
贏得児童走馬看  贏(か)ち得たり 児童の馬を走らせて看るを


二十年前には皇帝の側に仕えた自分だが、今は白髪となって江南の地に老いてゆく。
樽の酒が尽きれば独り寝の夢をむさぼる。その夢では紅色の杏の花が宮殿の欄干一杯に開いていた。
西の御苑の楼台には私の昔の逸話が残っていようが、北門で仲間と詩を競い合ったような遊びはもう出来ない。
北京城外の高涼橋の畔の美しかった春の景色は今どうなっていようか。今では都の少年が馬を走らせて花見にやって来ているだけだろう。


亀田鵬斎 辛巳元旦
 亀田鵬斎は江戸後期の儒者ですが、折衷学派の儒者として江戸で塾を開いていたが、寛政異学の禁ののちは洒脱な市井の学者として江戸の庶民から人気を博した。

朝来多感七旬時  朝来 多感 七旬の時
総異少年心所期  総て異なる 少年の心に期する所に
身老自知性益急  身老いて 自ら知る 性益々急なるを
気衰偏愧志逾卑  気衰えて 偏えに愧ず 志逾々卑しきを
往時夢逐風雲駃  往時 夢は風雲を逐いて駃(か)けしも
新歳興随犬馬遅  新歳 興は犬馬に随いて遅し
春酒三盃題門帖  春酒 三盃 門帖に題し
田間自在聴黄鸝  田間 自在に黄鸝(こうり)を聴く


七十の新年を迎えて色々思うが、若い時心に期したことは全てうまくゆかなかった。
年老いて益々性急になってきたと感じ、気力が衰えて志が卑しくなってきたことを恥じる。
昔は風雲に乗じて活躍することを夢見ていたが、この新年はもはや馬齢を重ねて心の動くことも少なくなった。
正月の酒を何杯か飲んで門に対聯を書き付け、畑へ出て鶯の声を自在に聴くのみである。 

参考図書
 白楽天詩選 川合康三訳注 岩波文庫
 中国詩人選集二集 呉偉業 福本雅一注 岩波書店
 江戸漢詩選 1 文人 徳田武注 岩波書店