2021年3月
太宰府における菅原道真
菅原道真については解説の必要はないでしょう。太宰権帥に左遷されて、失意の時代の詩です。深い漢学の素養があり、使われている言葉が難解ですね。
不出門 不出門
一従謫落就柴荊 一たび謫落せられて 柴荊に就きし従り
万死兢兢跼蹐情 万死 兢兢たり 跼蹐(きょくせき)の情
都府楼纔看瓦色 都府楼は 纔(わずか)に瓦の色を看
観音寺只聴鐘声 観音寺は 只鐘の声を聴く
中懐好逐孤雲去 中懐 好く逐う 孤雲の去るを
外物相逢満月迎 外物 相い逢いて 満月迎う
此地雖身無撿繋 此の地 身の撿繋(けんけい)無し雖も
何為寸歩出門行 何為(なんすれ)ぞ 寸歩も門を出でて行かん
ひとたびこの地に流されて柴や茨のわび住まいとなって、万に一つも死を免れることはあるまいと、天地の間におののいている。
ここからは都府楼の青い瓦の色が見えるだけで、観世音寺もただ鐘の音を聞くのみである。心のうちはひとひらの雲を追って去るように何のこだわりもなく、外の世界も時の流れのまま満月が来ればそれを迎えるだけである。
この地で此の身は何の拘束を受けているわけではないが、門を出て少しでも歩こうという気にどうしてなれようか。
先日、九州国立博物館で観世音寺の鐘(国宝)が展示されていました。まさにこれが菅公が聴いた鐘だと感無量でした。
謫居春雪 謫居(たくきょ)の春雪
盈城溢郭幾梅花 城に盈(み)ち郭に溢るるは 幾ばくの梅花ぞ
猶是風光早歳華 猶是れ 風光 早歳の華
雁足黏将疑繋帛 雁足に黏し将って 帛(きぬ)を繋ぐかと疑い
烏頭點着思帰家 烏頭に點着して 家に帰らんと思う
太宰府の城に満ちあふれつつ降る春の雪は数え切れない梅の花、やはりこの雪はこの世に満ちた早春の花なのだ。
雁の足に引っ付いては布に書いた手紙かと疑い、鳥の頭に点点と白く着いては家に帰ることが出来るかのように思われる。
雁足:漢の蘇武の故事、雁の足に手紙を付けて故郷へ送った、雁書
烏頭:燕の太子丹の故事、秦に捕らわれた時、烏の頭が白くなり、馬に角が生えたなら帰してやると云われた。
参考図書
王朝漢詩選 小島憲之編 岩波文庫最近、大岡信「詩人・菅原道真」(岩波文庫)を読みました。漢詩の基礎知識に関する所では全くの違和感なしとはしませんが、道真