2021年7月
七夕
旧暦の七月といえばすでに秋ですが、新暦で考えるとまだ夏の初めですね。
中国では以前は乞巧奠といい、女性が裁縫などの技芸の上達を祈っていたそうですが、現在は男女の愛の成就を願うバレンタインデーのような日のようです。
古詩十九首其十 無名氏
文選に収録された十九首の古詩の一つで、漢代に作られたものと考えられている。
もうこの時代にはすでに七夕伝説が出来ていたらしい。
迢迢牽牛星 迢迢(ちょうちょう)たり 牽牛星
皎皎河漢女 皎皎(こうこう)たり 河漢の女
繊繊擢素手 繊繊(せんせん)として 素手を擢(あ)げ
札札弄機杼 札札(さつさつ)として 機杼(きちょ)を弄す
終日不成章 終日 章を成さず
泣涕零如雨 泣涕 零(お)つること雨の如し
河漢清且浅 河漢 清く且つ浅し
相去復幾許 相去ること復た幾許(いくばく)ぞ
盈盈一水間 盈盈たり 一水の間
眿眿不得語 眿眿(みゃくみゃく)として語るを得ず
遙か彼方の牽牛星、こちらは白く輝く織女星
細やかな白い手を出して、サツサツと音を立てて機の杼を操る
彦星を思い焦がれて終日織っても織物は出来ない。涙が雨のように落ちる。
天の川は清らかで浅く、どれほども離れていない。
あふれる水に隔たれて、語らいも出来ず遙かに見つめるばかり。
七夕 李賀
別浦今朝暗 別浦 今朝暗く
羅帷午夜愁 羅帷 午夜愁う
鵲辞穿線月 鵲(かささぎ)は辞す 線を穿つ月を
花入曝衣楼 花は入る 衣を曝す楼に
天上分金鏡 天上 金鏡を分ち
人間望玉鉤 人間 玉鉤を望む
銭塘蘇小小 銭塘の蘇小小
更値一年秋 更に値(あ)う 一年の秋
去年貴方と別れた港は今朝から暗い。薄絹のとばりの中で夜が更けると憂いがまさる。
糸を針に通すのを照らしている月に別れて鵲は去って行き、花は衣を虫干している高殿に吹き込んでくる。(七夕には縫い物が上手になることを願い、また衣装を虫干しにする)
天上では金の鏡のような月が半分になり、地上からはそれが玉の鈎のように眺められる。
わたくし銭塘の蘇小小(名妓として有名)はあれからまた一年たった七夕を迎えました。
かささぎは天の川に橋をかける鳥と言われる。
やっぱり、李賀の詩は難解ですね。
秋夕 杜牧
皇帝の寵愛を失った宮女の悲しみを詠う。
紅燭秋光冷画屏 紅燭 秋光 画屏に冷ややかなり
軽羅小扇撲流螢 軽羅 小扇 流螢を撲(う)つ
瑤階夜色涼如水 瑤階の夜色 涼 水の如し
坐看牽牛織女星 坐(そぞ)ろに看る 牽牛・織女星
紅い灯火が放つ秋の光が美しい衝立をひんやりと照らし、うすぎぬの小さな扇で迷い込む螢をそっと打つ。
宮殿を包む夜の気配は水のように冷ややかで、宮女はそぞろに牽牛・織女を眺めいる。
参考図書
中国文学歳時記 秋 黒川洋一他編 同朋社
李長吉歌詩集 鈴木虎雄注釈 岩波書店
杜牧詩選 松浦友久・植木久行編訳 岩波書店 日本では江戸時代ともなると、大変旅がしやすくなっていて庶民と言えども野宿をしなければならないと言うことはなかったのではないでしょうか。