2021年8月

昼寝
 以前にも「昼寝」の詩を紹介していますが、今回は三回目です。

蘇舜欽 夏意
蘇舜欽は北宋の詩人で、蘇軾より少し年代が前で、梅尭臣とともに蘇梅と並び称せられる。
有力官僚の家に生まれ出世コースに乗っていたが、若くして失脚して蘇州に追放される。
そこに滄浪亭を営み、詩書を楽しんだ。

別院深深夏簞清  別院 深深 夏簞清く
石榴開遍透簾明  石榴 開くこと遍く 簾を透かして明らかなり
樹陰満地日当午  樹陰 地に満ちて 日は午に当り
夢覚流鶯時一声  夢覚めて 流鶯 時に一声


奥深い離れの部屋はひっそりとして夏の竹むしろが清らかに伸べている。庭には石榴の花が一面に咲き、簾を通して鮮やかに見える。
ちょうど夏の真昼時だが、木々の陰が地を覆っている。心地よいうたた寝の夢を破ったのは、枝から枝へと飛び移るウグイスのふと発した一声だ。


黄庭堅 六月十七日昼寝

紅塵席帽烏鞾裏  紅塵 席帽烏鞾(せきぼううか)の裏
想見滄州白鳥双  想い見る 滄州 白鳥の双(つがい)なるを
馬囓枯萁諠午枕  馬は枯萁を囓み 午枕に諠(かまびす)し
夢成風雨浪翻江  夢に風雨と成って 浪は江に翻る


帽子や黒い革靴の中にも俗世間の塵は積もるが、私は仙郷の滄州のひとつがいの白鳥が飛ぶ景色を思い描いていた。
昼寝の枕元では馬の枯れた豆殻をかむ音がやかましいが、夢の中ではそれが風雨となって大江に浪を巻き上げている。


館柳湾 夏日睡起
 何度も紹介していますが化政期の詩人。亀田鵬斎(2021.01)に学び、長らく飛騨郡代の手代(下級役人)として働いた。この詩などは江戸の風俗をよく写していますが、中国にはない情景かもしれません。

独臥風床睡味長  独り風床に臥して 睡味長し
醒来残日下西牆  醒め来れば 残日 西牆に下る
門前時有売虫過  門前 時に虫を売りて過ぎる有り
一担秋声報晩涼  一担の秋声 晩涼を報ず


独り風通しのよい床几に寝転んで長い昼寝をした。目覚めると夕日がもう西の垣根の辺まで下りている。
ちょうど門前に虫売りが通り過ぎてゆく。天秤棒に担いだ籠の秋を告げる虫の声が夕暮れ時の涼しさを報じている。

参考図書
 中国文学歳時記 夏 黒川洋一他編 同朋社
 江戸漢詩選 下 揖斐高編訳 岩波文庫