2021年11月
蜜柑
王昌齢 送別魏二
酔別江楼橘柚香 酔うて江楼に別れんとすれば 橘柚香る
江風引雨入舟涼 江風 雨を引き 舟に入りて涼し
憶君遙在湘山月 君を憶いて 遙かに湘山の月に在り
愁聴清猿夢裏長 愁いて聴く 清猿の夢裏に長きを
楼上で別れの宴を開いていると蜜柑の香りが漂ってくる。川風が雨を引き込んで舟の中に涼しさをもたらす。
この後、私は遙か洞庭湖の中の湘山(君山))に行って月光の下で、君を偲びつつ、夢のうちに長く聞こえる清らかな猿の鳴き声に憂愁の思いにふけることでしょう。
蘇軾 食柑
蘇軾が黄州に流されていた時の詩。宴会に招かれて詠んだ詩ではないでしょうか。
一双羅帕未分珍 一双の羅帕 未だ珍を分たざるに
林下先嘗愧逐臣 林下に先ず嘗めて 逐臣たるを愧ず
露葉霜枝剪寒碧 露葉 霜枝 寒碧を剪り
金槃玉指破芳辛 金槃 玉指 芳辛を破る
清泉蔌蔌先流歯 清泉 蔌蔌(そくそく) 先ず歯に流れ
香霧霏霏欲噀人 香霧 霏霏 人を噀(ふ)かんと欲す
坐客殷勤為収子 坐客 殷勤 為に子を収む
千奴一掬奈吾貧 千奴 一掬 奈んぞ吾貧ならんや
例年、朝廷ではハンカチに包んだ二つの蜜柑を近臣たちに下賜されるのだがそれがまだ行われていないのに、この林下の宴で蜜柑を先に味わうとは流罪の身を恥じ入るばかりだ。
露の着いた葉、霜の降りた枝から緑の実を切り取り、金の盆に給仕の女性の玉のような指が房を裂くと酸っぱい香りが拡がる。
口に含むと清らかな汁がサラサラと歯に流れ、香りの霧が広がりむせ返るよう。
客の私は丁寧に種を集める。一掬いの蜜柑の種を植えたならば、どうして私が貧しいということがあろうか。
参考図書
中国文学歳時記 秋 黒川洋一他編 同朋社
蘇文忠公詩合注 中文出版社