2022年03月

春日雑詩

 
今月は「春日雑詩」と題した詩を二首採って見ました。

袁枚 十二首 其の一

千枝紅雨萬重烟  千枝の紅雨 万重の煙
画出詩人得意天  画き出す 詩人 得意の天
山上春雲如我懶  山上の春雲 我が懶(ものう)きが如く
日高猶宿翠微巓  日高くして 猶宿る 翠微の巓


たくさんの枝から落ちる紅の雨が幾重にも重なる春霞に包まれている。これこそ詩人が得意として描き出す風景だ。
山の上の春雲は私が怠け者であるのに似て、もう日が高く昇っているのにまだ翠の山気ただよう頂に寝ている。


菅茶山 三首 其の三

芳草生路傍  芳草 路傍に生じ
梅花満村辺  梅花 村辺に満つ
遠田明水色  遠田 水色明らかに
白鷺集復飜  白鷺 集いて復た飜える
入春才二旬  春に入りて 才(わず)かに二旬
韶華遍川原  韶華 川原に遍し
瞻此景物佳  此の景物の佳なるを瞻(み)て
忻我身世閒  我が身世の間なるを欣ぶ
作詩写幽懐  詩を作りて 幽懐を写し
飲酒解愁顔  酒を飲みて 愁顔を解く
但有同心友  但 同心の友有り
依依不可諼  依依として 諼(わす)るべからず

かぐわしい草が路傍に生え、梅の花が村外れにいっぱいに咲いている。
遠くの水田には湛えられた水が光り、白鷺が集まってきたかと思うと亦ひるがえる。
春になってまだ二十日ほどだが、春景色が川原いっぱいに拡がっている。
この景色の素晴らしいのを見るに付け、私の生活ののんびりしているのが嬉しい。
詩を作っては心の思いを託し、酒を飲んでは破顔一笑する。
ただ気心のしれた友のいるのがいつまでも忘れられない。

参考図書
 清詩選 漢詩大系22 近藤光男 集英社
 江戸時代田園漢詩選 池澤一郎 農山漁村文化協会