2022年05月

初夏の風光

杜甫 絶句漫興

舎西柔桑葉可拈  舎西の柔桑 葉拈(つ)むべく
江畔細麦復繊繊  江畔の細麦 復た繊繊たり
人生幾何春已夏  人生 幾何ぞ 春已に夏なり
不放香醪如蜜甜  香醪をして蜜の如く甜(あま)からしめざらんや


家の西の柔らかな桑の葉はもう摘めるようになって、川端の若い麦の穂も細やかに伸びている。
私の人生もこの春から夏に移る季節を何回経ることが出来ようか。この香り高いどぶろくを蜜のように甘くせずにおくものか。


陸游 初夏遊凌氏小園

水満池塘葉満枝  水は池塘に満ち 葉は枝に満つ
曲廊危榭愜幽期  曲廊 危榭 幽期に愜(かな)う
風和海燕分泥処  風は和かなり 海燕 泥を分つ処
日永呉蚕上簇時  日は永し 呉蚕 簇に上る時
閑理阮咸尋旧譜  閑に阮咸を理(おさ)めて 旧譜を尋ね
細傾白堕賦新詩  細かに白堕を傾けて 新詩を賦す
従来夏浅勝春日  従来 夏の浅きは春日に勝る
児女紛紛豈得知  児女の紛紛たる 豈に知り得んや


水は池に満ちあふれ、若葉は枝にみちている。曲がった回廊、高い楼台は静寂を求める心にかなっている。
海燕が泥を分けて巣作りをしている時、風は穏やかに吹いている。呉の蚕が繭作りに棚に上げるころ初夏の日は長い。
心静かに琵琶の弦を整えて古曲の譜を探り、チビリチビリと美酒を傾けては新しい詩を作ってみる。
昔から初夏は春にも勝ると決まったもの。花に浮かれる女子供に何で判ろうか。


山梨稲川 采薇

 山梨稲川は初めてだったでしょうか。稲川(1771-1826)は駿河国庵原郡の豪農の一族で、漢詩人、音韻学者として名を残しているが、生前の著書が「稲川詩草」のみで、長らく無名であったが、明治になって清の兪樾が彼の詩を絶賛したので以後注目されるようになった。

晴日携籃何処遊  晴日 籃(かご)を携えて 何れの処にか遊ばん
西山紫蕨正堪柔  西山の紫蕨(しけつ) 正に柔らかなるに堪たり
白雲青靄千峯裏  白雲 青靄 千峯の裏
一曲長歌意更幽  一曲の長歌 意更に幽なり


晴れの日、カゴを携えてどこに出かけようか。西山のワラビがちょうど食べ頃ではないかな。
白雲や青い靄に包まれた峯々の中を、長い歌を歌いながら歩いていると心がさらに穏やかになってくる。

参考図書
 中国文学歳時記 夏 黒川洋一他編 同朋社
 江戸時代田園漢詩選 池澤一郎著 農山漁村文化協会