2022年07月

楊梅
 楊梅(ヤマモモ)は初夏に実る果物ですが、産期が短く、傷みやすいので市場にですことは少ないようです。しかし徳島県では県の木、高知県では県花に指定されています。小生も大好物の果物ですが、なかなか口にすることはできません。
 中国でも南部のほうではポピュラーな果物のようで、詩にも詠まれています。有名なものでは蘇軾の「食茘枝」に「盧橘楊梅次第新」と詠われているのが最も有名なようですが、ちょっと調べてみると多くの詩がヒットします。そのうち、いくつかを紹介します。しかし、食べて美味しいと言っている詩はなかなか見当たりませんでした。

 
裴司士員司戶見尋 (裴司士、員司戶 尋ねらる)  孟浩然

府僚能枉駕, 府僚 能く駕を枉(ま)ぐ
家醞復新開。 家醞(かうん) 復た新たに開く
落日池上酌, 落日 池上に酌(く)めば
清風松下來。 清風 松下より來る
廚人具雞黍, 厨人 雞黍(けいしょ)を具(そな)え
稚子摘楊梅。 稚子 楊梅を摘む
誰道山公醉, 誰か道(い)う 山公醉えりと
猶能騎馬回。 猶お能く 騎馬にて回らん

役所の同僚がわざわざ訪ねてくれたので、家で醸した酒を新たに開ける。
夕方、池のほとりで一杯やっていると、清らかな風が松林の方から吹いてくる。
料理人が御馳走を作り、おさな子がヤマモモと採る。
「ご主人酔っぱらったね」なんて誰が言うのだ、まだまだ馬に乗って帰ることができるぞ。


出近村歸偶作(近村に出て歸る 偶作)  陸游

朝騎小蹇涉烟村, 朝に小蹇(しょうけん)に騎して 烟村を涉(わた)れば
擁路爭看八十身。 路を擁して 爭いて看る 八十の身を
似我猶爲一好漢, 我を猶 一好漢と為すに似たり
問君曾見幾閑人。 君に問う 曾て幾たりの閑人を見しやと
楊梅線紫開園晚, 楊梅 線は紫にして 開園すること晚(おそ)く
蓴菜絲長入市新。 蓴菜 糸は長くして 市に入ること新たなり
莫笑堅頑推不倒, 笑う莫れ 堅頑 推せども倒れざるを
天教日日享常珍。 天は 日日 常に珍なるを享(う)け教む


朝、貧弱なロバに乗って遠くの村に行くと、道にいっぱいに群がりこの八十の爺さんを争って見ている。
私を一人の立派な男と思っているようだ。ちょっと聞くがこんなに沢山の暇人を見たことがあるかい。
ヤマモモの実は紫色になって畑にようやく熟し、ジュンサイの糸が長くなって新たに市場に出ていた。
笑わないでくれたまえ、この爺が頑健で押したぐらいでは倒れないことを。天は日々いつも珍しいもの喜んで受け入れてくれるのだ。

*この詩、読み下し、解釈ともに正しいか自信がありません。


醉帰(酔うて帰る)二首 其二  陸游

烏桕陰中把酒杯, 烏桕(うきゅう)陰中 酒杯を把り
山園処処熟楊梅。 山園 処々 楊梅熟す
醉行踸踔人争看, 醉行 踸踔(ちんたく)すれば 人争いて看る
蹋尽斜陽蹋月来。 斜陽を蹋(ふ)み尽して 月を蹋みて来る

ナンキンハゼの木陰で酒を飲む。山の畑は至る処ヤマモモが熟している。
酔っぱらってあちこちフラフラしていると人が集まって見ている。夕日の影を踏み終わって、今度は月影を踏みながら帰ってゆく。


広州竹枝六首 其三  王士禛

梅花已近小春開, 梅花 已に小春に近づきて開き
朱槿紅桃次第催。 朱槿 紅桃 次第に催す
杏子枇杷都上市, 杏子 枇杷 都(すべ)て市に上り
玉盤三月有楊梅。 玉盤 三月 楊梅有り

梅の花はもう秋の小春日和には咲き始め、ハイビスカス、桃の花が段々と開きだす。
杏子やビワはもうぜんぶ市場にならんでいて、玉の綺麗な盤にはまだ三月だというのにもうヤマモモが盛られている(さすがに南国だ)。

参考図書
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