ドイツの恋人たち −ドイツ最高峰ツークスピッツエにて−

 200110月、退職後、家内とレンタカーでドイツを一ヶ月近く旅したときの見聞である。

有料道路沿いの清流

路傍のキリスト

 アルペン街道というのであろうか、ザルツブルグから西へドイツ・オーストリア国境の山岳地帯を何日かかけてドライブした。このとき経由したベルヒテスガーデンの写真は「ヨーロッパの思い出」の中に掲載している。黄葉は日本ほど色とりどりではないが、それでも秋は秋、充分に鑑賞に堪える。ここにドイツで一度だけ通った有料道路があった。これは私有道路らしく、10キロメートル程のきれいな川沿いの道で対向に苦労するほど細かった。横を流れる川の水は上高地の梓川のように清冽で上流に町があるとは信じられないほどであった。

 さて、ガルミッシュ・パルテンキルヘンについた。ここはヒットラー時代に冬季オリンピックが行われた町である。元はガルミッシュとパルテンキルヘンという二つの町であったが、オリンピックを開催するには小さすぎるというので無理やり合併させられたらしい。ここにドイツ最高峰のツークスピッツ2963m)がある。ここに登るには、半分はトンネルの中というアプト式登山電車とロープウェイで、また下りは別のロープウェイで一気に麓まで下るのが最高だ。

 登山電車は町から出発するのであるが、我々は下りのロープウェイが降りてくる途中のアイブゼー駅から乗り込む。車両の中は10人程の客。座席はちょうど日本の古いタイプの列車のような向かい掛けに四人座るタイプである。腰を下ろすと、すぐに斜め向かいに座っているドイツ人(?)のカップルに気がついた。男は四十前後か、黒ずくめの高級そうな服装がぴったりときまった渋い二枚目である。向かい合って座っている女性は、三十過ぎでロミー・シュナイダーとまではいかないがまあ見られる顔立ちで、服装はこれまたシックである。女性は両手で男の手を取り、少し前かがみになって相手の目をじっと見つめている。これは絶対に夫婦ではない。女房が旦那をあんな目で見つめるはずがない。

 やがて、列車が出発して、ガタゴトとゆっくり高度を上げてゆく。それとともに森に囲まれたエルブ湖の深い緑が眼下に展開される。素晴らしい景色である。小生は例のカップルが気になり、チラリチラリと目をやるのだが、女性は景色などには目もくれず、男の目を瞬きもせずジッと見つめたままである。男が話しかけると、にっこりと笑い、さらに身を乗り出して、二人の目の距離は50センチほどになる。男は少しの間見つめあうが、すぐに視線を外してキョロキョロと周りを見だす。ウワー、タマランナー。アンナニ見ツメラレタラ。男ハドモナランワ。つい男の身になって同情する。

 列車はトンネルに入る。これから山頂駅までずっとトンネルである。カップルの様子はまったく変わらない。

 結局、エルブゼー駅を出て山頂駅まで3,40分だっただろうか、その間、小生の見た限り彼女は男の目をずっと見つめたままだった。まさにドイツ女の深情けを見た思いだった。ソヤケド、コノ二人ハ長続キセンヤロナー。日本ノ男トシテハ、モットアッサリシテホシイナー。見テルダケデ疲レタワ。

 女はこれと思い定めた男を一途に想うが、男は、生物学的本能として、自分の遺伝子をばら撒くチャンスを窺っているというのは、今放送されているテレビドラマ「不機嫌なジーン」のテーマであるが、そんな場面を見た思いだった。

登山電車

山頂からのエルブ湖

ツークシュピッテ頂上