奥羽山系サイクリング (2020.08

 一昨年夏、山形県米沢を出発して北へと走り出したが、悪天候のため宮城県の鳴子温泉で北上するのを諦め、西へ逃げた(日本やまんなか縦断サイクリング:秋田県川原毛−山形県米沢 参照)。今回はこれをつないで更に北へ延ばそうと思い立った。出発点は山形県の新庄だ。ここから鳴子温泉に入り、北上してあわよくば十和田湖から青森を目指そう。

8月24日(月)
 ガラガラの山形新幹線が新庄駅に着いたときは、車両には私一人しか乗客はいなかった。午後3時半、駅を出ると思わずクラッとする。これは東北も暑いぞ。
 新庄市からR47を東に走り一山越えると小国川に出る。少し上流に上ると瀬見温泉だ。今日はここまでだ。一軒目の旅館で断られ、二軒目のここで一番大きな温泉ホテルにトライすると幸い空きがあり、夕食もOKとのことだった。有難い。
 走行距離 16km

   
 新庄駅  小国川
   
義経、弁慶伝説の瀬見温泉   瀬見温泉の宿

8月25日(火)
 
朝食抜きで、6時出発。最上川の支流・小国川はなかなかの清流で気持ちよく走る。朝のうちはさすがに涼しい。ヤナが仕掛けてある。もうすぐ落ち鮎の季節だな。宿の夕食で鮎の塩焼きが出たが、まあ養殖だろう。ルアーフィシングをやっている釣り人がいる。岩魚かな。
 10kmほど走ったところで新庄から来たサイクリストに追いつかれた。ノロノロの私に付き合ってくれて県境まで一緒に走る。更に10kmほどで中山峠に達する。ここには陸羽東線堺田駅がある。丁度列車が通り過ぎる。水別れ公園がある。西への流れは小国川から最上川に入り日本海まで102.6km、東へ流れては江合川から北上川に入り太平洋まで116.2kmとのこと。どちらかの流れは開鑿したものだろう。
 駅から国道に出たところに「封人の家」がある。重要文化財のこの家は国境の関守だった有路家住宅で芭蕉が泊まったといわれている。「蚤虱馬の尿(ばり)する枕元」の句が有名。ここで引き返すサイクリストと別れ、峠を越えて鳴子に向かって下る。

   
ヤナ   ルアーフィッシング
   
小国川  堺田駅 
   
列車が通り過ぎる   分水嶺の水別れ
   
封人の家   サイクリストと別れる

 中山峠から下りきると尿前の関跡の看板がある。ちょっと寄って行こう。駐車場から200mほど山道を下ると関跡に出る。何もない。何と書いてあるか判らぬ芭蕉の句碑があるのみ。鳴子温泉街には出ずバイパスを通って鬼首に向かう。鬼首集落の食料品店でクッキーやバナナなど今日の昼飯を仕入れる。

   
 鳴子峡  尿前の関の看板
   
芭蕉の句碑  古い街道跡か? 

 暫くR108を走る。ここは前回と重なっている部分だ。森の中で10mほど先をクマがトコトコと横切った。対向のダンプがビックリしたようにクラクションを鳴らしたが平気で林の中に消えた。
 いよいよR108 と別れて、県道248に入る。この道で鬼首の裏山の荒雄岳の裾を廻って、栗駒山に向かう尾根の国道へと上る。日が高くなり暑くなってきた。もう30℃を超えているのではないかな。ポツンポツンと集落のある静かな道を走る。オミナエシやススキが秋の気配を告げている。やがて県道は谷に入り尾根へと登り出す。あれ舗装が切れてラフロードになった。小石がゴロゴロとして前輪がすべる。おまけにこの暑さだ。とても乗っては登れない。トボトボと押して上る。水が少なくなってきたぞ。雨が全く降っていないのか、道路脇の谷はカラカラだ。ようやくR398に出た。 
湯浜温泉入り口を通り過ぎて暫く上ると花山峠で、秋田県に入る。道は小さな上り下りを繰り返しながら北へと進む。地図にある栗駒神水というのを見落とした。ようやく小安温泉へ下る道と栗駒山の方へ上る道との三叉路に出た。ここから目指す須川温泉までは300mの上りだが、暑さと喉の渇きでちょっとした坂も上る元気が出ない。道は山の斜面を縫っているが山の斜面は乾燥しきっている。道路工事の兄ちゃんに、「近くに水が出ているところない?」と尋ねると、「この先に工事用の水が出てるけど、飲めないよ」という。飲める飲める。山から出ている水が飲めないはずはない。少し先にパイプから冷たい清水が滾滾と流れ出ている。コップで受けて一口飲んでみると、旨い。正に甘露だ。息もつかずに5、6杯飲み干す。1リットルぐらい飲んだのでは?お腹がダブダブしてしゃっくりが出始めた。まだ2、3杯は飲めそうな気がしたが、ここらで辛抱しよう。
 元気が出て、しばらく進むと須川湖に出た。山上にあるにしてはビックリするほど大きな湖だ。キャンプ場になっている。今日はここで泊まろう。須川温泉まで行って泊まれなかったら悲劇だ。
 テントを張って、休んでいると急に激痛が走って足がつり出した。水分は補給したが塩分不足だ。あわてて炎熱サプリという食塩補給の錠剤を3錠飲む。すっと足の引きつりが収まる。ついでに芍薬甘草散も飲んでおく。これで一晩熟睡出来た。標高1000mだが、暖かい。
 走行距離 80km

   
道路脇の神社   オミナエシとススキ
   
県248   花山峠
   
正面は栗駒山あたりかな?   
   
湧き水   樹林帯
   
キャンプ場の林   

8月26日(水)
 
今日も快晴だ。キャンプ場を散歩して、出発。少し上って須川温泉の露天風呂に入る。トルコ石様の色をした綺麗なお湯だ。
 前の駐車場に出てみると、西に鳥海山が聳えている。眼下には湿原が広がる。もう一度来て栗駒山登山と温泉三昧でノンビリしたいところだ。
 R342を北に向かって大下りする。途中の仙人水が有名らしいが、昨日呑んだ湧き水の方がずっと旨かった。これは喉の渇きのせいかな。さらに下ると巨大なダム工事の現場に出る。成瀬ダムだ。現在建設中のダムでは最大級ではないだろうか。R342は鳴瀬川に沿って東成瀬村を南北に一直線に貫いている。約20km。35℃ぐらいにはなっているのではないかな。途中の無人野菜売り場でトマトを買う。4個100円だ。木陰に腰を下ろして夢中でかぶりつく。

   
 須川湖 須川温泉露天風呂 
   
 鳥海山遠望 栗駒湿原 
 
栗駒仙人水 成瀬ダム工事現場 

 やがてR342は山に突き当たって西に折れるが、あくまで北を目指す私はここから山越えにかかる。ところが予定していた県道40は通行止めで、一本西の山越えの道が迂回路に指定されている。さすがにこの暑さではちょっとした坂でも上る元気はない。トボトボと押し上る。半分は押して標高500mの峠を越える。気持ちよい下りで横手市の山間部を走る。
 南郷という集落で一青年に呼び止められペットボトルを提供される。話をすると彼も大阪の人で、フィアンセの住むこの集落まで自転車でやって来て暫く滞在しているとのこと。大阪と秋田の人がどうやって知り合ったのと聞くと、北アルプスの山小屋でアルバイトをしていて知り合ったとのこと。このあと北海道へ行って農業をやるつもりとのこと。若くて元気いっぱいで何とも羨ましい。
 ここから北へ向かうにはもう一本山越えの県道を越えねばならない。また、押し登りだ。もう嫌になってきたぞ。

   
鳴瀬川  R342 
   
山越え   山を下った横手市の山中
   
横手市南郷あたり  萩の花? 

 峠を越えるとJR北上線黒沢駅に出る。いよいよ暑い。R107を東へ走る。ゆだ高原へのダラダラとした上り。トラックの交通が多い。まだ60kmぐらいしか走っていないがもう走るのが嫌になってきた。岩手県に入る。今日は近くの湯本温泉で泊まろう。
 湯本温泉には早々に到着する。一軒目の旅館は県外の客は泊めないとのことでダメ。二軒目の対滝閣でOK。熱い風呂に入って夕食まで昼寝。
 走行距離 60km

   
宿の窓からの眺め  豪華な夕食 

8月27日(木)
 朝6時出発。ここは岩手県西和賀町。和賀川を遡って町を南北に貫く。昨日の東成瀬村は西成瀬村がなく、ここ西和賀町は東和賀町がない。町村合併のためだろうがちょっと面白い。この町と秋田県の県境の中央分水嶺は真昼山地といって標高1000mちょっとであるがなかなか面白い山行が出来る。高下岳−和賀岳−真昼岳−女神山と縦走したのは2008年6月のことだったか(山の想い出参照)。もう12年になる。
 曇り空で涼しい。町の中央を貫いて県道1号線が走っている。道の両側には広い田畑が拡がっており蕎麦の白い花が花盛りだ。快調に走る。町の北端に貝沢のバス停がある。8年前にはここから山に入ったのだ。今の体力ではもうあんな登山は出来ないだろうな。少し行くと山伏トンネル、ここで西和賀町は終わって、雫石町に入る。

   
県道1号線  蕎麦畑
 
 貝沢バス停 高下岳登山口 山伏トンネル 

  渓流に沿ってなだらかな道を下ってゆく。カラリと空は晴れて、やっぱり暑くなってきた。ダム湖の御所湖に出る。湖のまわりは静かな公園になっているが、パスして県道219を北上して、小岩井農場を目指す。上りは緩くとも暑さが辛い。小岩井農場。入場料が高いし、ゆっくり見物している時間もないので、前の土産売り場でソフトクリームを食べて松林で一息つく。

   
キクイモの花   御所湖
   
小岩井農場 ヒマワリ畑   小岩井農場

 小岩井農場を出て、さらに北上する。標高500mが最高地点だ。ここから真北は岩手山なので、東に捲くように県道278を下ってゆき、R282を北上する。この道は交通量が多い。きつい日射しを受けてひたすら走り、八幡平市に入る。もうすぐ走行距離100kmだ。そろそろ適当なキャンプ地を探そう。平館駅の傍の市民会館の庭で一休みして地図でキャンプ適地を探す。この辺りは広々とした水田地帯だ。南西に岩手山、西に八幡平、南東に姫神山らしいピークが見える。すぐ近くの集落の奧に小高い森が見える。あちらに行ってみよう。
 野駄館跡といって、南部氏の一族の館があったらしい。公園になっている。ここにテントを張って、国道沿いのコンビニへ酒を買いに走る。
 走行距離 110km

   
 岩手山 八幡平の山々 
   
岩手山   姫神山
   
野駄館跡でキャンプ  野駄館公園 

8月28日(金)
 
土曜日には大阪に帰っていなければいけないので、走れるのは今日いっぱい。十和田湖は諦めた。八戸を目指そう。予定では七時雨、田代平高原を越えてゆくつもりだったが、もう元気はない。出来るだけ楽なコースを取ろう。
 R282を安比高原へと上ってゆく。250m程の緩やかな上りだ。安比高原、標高500m。分水嶺を越えるがまだ八幡平市だ。広い市だな。小さい村をたくさん合併して作ったようで、どこが中心かよく判らない都市だ。ここからは原則安比川に沿って八戸まで下るので、大した坂はないだろう。まず安代という町まで下る。下るにつれてもの凄く暑くなってきた。安代で鹿角に向かうR282と別れて県道6を二戸へと下る。すぐ二戸市に入る。道はなだらかだし、交通量も少なくなってきたのだが、とにかく暑い。フラフラしてきたぞ。このままでは熱中症になる。いやもうなっているのかも。すぐ先に天台寺という寺院がある。重要文化財の名刹らしい。ここで休憩だ。
 寺の入り口までちょっとした坂を必死で漕ぎ上がる。自転車を置いて300m程の参道を登ってゆくが、大門までに3度も立ち止まって息を入れる。門で拝観料を払っていると、そこの爺さんが私の様子を見かねたのか、「本堂の広間で寝転ぶと風がよく通って気持ちがいいよ」と勧めてくれた。勧めに従って、本堂に上がり込み坐ると、爽やかな風に包まれる。まさに極楽のあまり風というやつだ。しかし汗がダラダラと流れて止まらない。ウトウトしてきたので横になる。・・・・・・
 気がつくと一時間以上寝込んでいた。しかしすっかり元気になった。しかし急がないと八戸まで行けないぞ。
 走り出すと、午後の日射しは益々きつくなっている。電光掲示板の温度標示がある。エー、ウソだろ。40℃。
 50km先の八戸まで走ると、死ぬかも知れない。10kmほど先の二戸でお終いにしよう。というわけで二戸のビジネスホテルに飛び込む。夜、近くの居酒屋に行くと他府県人ということで運転免許証のコピーを撮られた。
 走行距離 60km

   
 キャンプした森 天台寺 桂の水 
   
天台寺本堂  聖観音菩薩像 
   
本堂広間  二戸駅 南部の英雄 九戸政実