島根半島サイクリング
2021.09
東北の吾妻山系か、関東の丹沢にでも行こうかと、天気予報を見るとどうも東の方は思わしくない。中国地方は好さそうだ。じゃあ前々から行きたいと思っていた島根半島サイクリングを実行しよう。島根県の宍道湖の北側に平たく突出した部分がある。ここを島根半島と呼ぶらしい。あまり半島という地形らしくはないが。
出雲国風土記に書かれた国引き神話では、神様が出雲国は小さすぎるので西の方は縄をかけて新羅から引っ張って来た。そのときの杭が三瓶山で縄の跡が稲佐の浜である。東の方は越の国(能登辺りかな?)から引っ張って来て、その杭の跡が大山で縄の跡が弓ヶ浜だという壮大な話だ。この半島の海岸線を走ると神話の気分に浸れそうだ。加賀の潜戸(かかのくけと)も行ってみたいし。
9/09 岡山まで新幹線、岡山から特急やくもで出雲市まで。伯備線の曲がりくねった山間の線路をスピードも落とさずどんどん飛ばす。振り子列車なのかな。午後1時、出雲市着。幸い好天だ。
今回は出雲大社はパスして、西へ高瀬川という小さな川沿いに走り海岸に出る。浜の松林にでるとサイクリングロードがあり、それを北に辿ると弁天島が見えてくる。残念ながらまわりは工事中だ。工事をやってない側からパチリ。海を隔てて西南に三瓶山が遠望できる。国引き神話にピッタリの地形だ。
高瀬川 | サイクリングロード |
弁天島 | 三瓶山遠望 |
ここから海岸沿いに北へ向かい、日御碕を目指す。5時前に日御碕に到着するも、ひっそりとしている。数軒ある食堂もほとんど閉まりかかっている。慌てて一軒に飛び込んで、テイクアウトの海鮮丼と酒をゲットして、丘の上の駐車場の脇の芝にテントを張る。暖かくて気持ちがいい。灯台をシルエットにして夕陽が沈む。
日御碕は若い頃に一度来た記憶があるが、はて何時だったか?
日御碕への道 | キャンプサイトから海岸を見る |
トンビ、タカ? | 日御碕灯台に沈む夕陽 |
9/10 今日も快晴である。海岸沿いの道を日御碕神社へと下る。神社は朱色のなかなか壮大に神社である。下の社には天照大神、上の社には素戔嗚尊が祭られているとの事。してみると出雲系ではなく、高天原系の神様か? 何か曰くありげな。
さて、昨日の道を引き返す。途中にある食堂で朝食。海鮮ラーメン。なかなか旨い。さらにバックして左に別れる県23に入り鷺浦を目指す。ループ橋があったりして結構な登りの峠越えだ。峠を越えて下ると小さな漁村鷺浦に出る。さらに小さな峠を越えると猪目。ここの岸壁の割れ目が猪目洞窟だ。黄泉への入り口とも言われるが、縄文から古代までの人骨などの遺物が出土したとのこと。中に入ってみると一部には漁具が置かれ、漁船を引き上げるケーブルも設置されている。
灯台 | 経島(ふみしま) |
日御碕神社 | 分岐点 |
鷺浦 | 鷺浦 |
猪目 | 猪目洞窟 |
猪目集落を抜けて山へ入るところで工事中で通行止めだ。この案内は県23入り口にもあったが、無視してここまでやってきた。狭い一車線の道一杯にブルトーザーた3台直列に並んで作業している。車は絶対に通れない。恐る恐る近づくと、若い作業員が飛び出してきて、「迷惑かけてすみません」と謝りながら脇を通り抜けるのを手助けしてくれる。こちらが帰って恐縮する。
山を抜け、海岸線を東へと走る。やがて大きな湾とその先に風力発電塔が立ち並ぶ岬が現れる。十六島湾だ。十六島でウップルイと読む。これは難読地名だ。ウップルイはアイヌ語だとか、古代朝鮮語だとか諸説あるようだがよく分からないらしい。十六島は後から付けた漢字らしいので、十六島をウップルイと読んだのではないようだ。この辺りでは一番大きな港のようなので食料品の店を探すと小さなJAの店があった。パン、缶詰、果物などを少し手に入れる。ここは海苔が名産のようだ。
岬、十六島鼻の先を廻って次の集落、釜浦へと向かう。ここも通行止めの柵が立ててあるが自転車は難なく走れる。ひっそりとした釜浦の集落を抜けると突然かなり厳重な通行止めの柵が現れる。ここまでに何の表示もなかった。近くの家から出てきたお婆さんに聴くと、先だっての豪雨でこの先で崩落が起こり人も通れないとのこと。そのさらに先にも崩落があるらしいが、手が回らないのか放置されているとのことだ。とりあえず崩落場所まで進んでみる。アレアレ、高さ十メートルほどの小山が出来ている。近づいててっぺんまで登ってみる。向こう側は崖が急だ。下ると上り返せるかな?十年前ならトライしただろうが、今は腰がふらついている。やめておいた方が無難だな。引き返そう。
猪目を振り返る | 十六島の岬 |
十六島鼻を抜ける | 釜浦の先の崩落 |
釜浦から十六島までは峯越のショートカットのルートがある。気落ちして坂を上る元気がない。トボトボと押し上がる。
十六島からは南へ小さな峠を越えて、宍道湖側に出る。宍道湖北岸のR431は結構交通量が多いので、国道を走ったり、脇道を走ったりしながら東へ向かう。佐陀川流域の平野に出る。目指すのは沙太神社だ。
栗畑 | 一畑電車 |
宍道湖畔 | 一畑電車 |
農村風景 | 水田の中の道(佐陀川流域) |
佐陀川の流れに沿って佐太神社が鎮座している。なかなか由緒のある神社らしく荘厳な社殿だ。中心の御祭神は佐太大神で明治になって猿田比古大神と同一ということにされたようだ。これは道案内の神様だからサイクリングの無事をお祈りする。ここには多くの神様が祀られているが、その中に秘説四柱といわれる公開されていない神様たちがいる。おそらく高天原との戦いに敗れた出雲系の神達なのだろうと想像を逞しくする。司馬遼太郎の「街道を行く」を読むと出雲の神々には決して明かしてはならない秘密がいっぱいあるようだ。
さて、そろそろねぐらを探しながら佐陀川沿いに北の港の方へ走る。この川は江戸時代に宍道湖と日本海を結ぶ放水路・運河として掘削されたとのこと。従ってここは湖と海の間が山が切れて平らに繋がっている場所だ。快適に走れる。川の中に広いボートの係留地がある。近くの島根原発から松江市外方面に帰る車の交通量が多い。コンビニに立ち寄って、酒などを仕入れて、キャンプにいい場所を尋ねると、深田運動公園を勧めてくれた。少し坂を上った広々とした林の中の気持ちのいい場所だ。隅っこの芝にテントを張り、東屋で一杯やりながらの夕食。パラパラと小雨が降ってくる。
10時過ぎ、突然警備員に起こされる。ここは夜は閉門して誰も居ることは出来ないと告げられる。そんなことはどこにも書いていなかったのにと抗議をするが、ダメの一点張り。どうもここは原発の管轄内で警備が厳しいとのこと。警備員に裁量の権限があるはずもない。やむを得ずテントをたたみ、荷物をまとめて鹿島町海岸まで走り、浜辺でテントも張らずに一夜を明かす。幸い雨はやんでいる。
佐太神社 | 三殿のうちの右側の神殿 |
佐陀川の中のボート停泊地 | 運動公園 |
9/11 昨夜は分からなかったが、美しい海岸だが、気分の悪い町は早々に退散しよう。東へ向かう道は海岸沿いにもあるが原発の傍を通るので、バックして山の中を峠越えで次の集落、御津へと向かう。御津を過ぎて、振り返るとにっくき島根原発が見える。これは日本で県庁所在地(松江市)にある唯一の原発らしい。
御津の次は加賀漁港だ。ここは今回の旅の目的の一つ、加賀の潜戸を見る観光船が出る所だ。今日の一番目の出港は10時過ぎ。まだ一時間半もある。外はカンカン照りだし、何もなさそうなので、発着場の二階にある資料館で時間を潰す。
鹿島町海岸 | 佐陀川運河の朝 |
御津漁港 | 御津より見た島根原発 |
出港。乗客は3人。加賀は北前船の寄港地で栄えた港だったとのこと。岬の先端にある神潜戸に船は入ってゆく。この中で佐太大神(猿田比古大神)は生まれた。神話は尊重するが、あまり信仰心はないのでそれほどの感激はない。若狭の蘇洞門の方が豪快かな。それから仏潜戸。ここは賽の河原だ。陰気で気味悪いので早々に退散する。一時間足らずのクルージング。港に帰って、発着場のレストランでサザエ飯定食の昼食。なかなか美味しい。
北前船を繋いだもやい岩 | 加賀港と遊覧船 |
加賀の潜戸(仏潜戸) | 加賀の潜戸(神潜戸) |
神潜戸、三つの門がある | 神潜戸 |
象岩 | 仏潜戸 |
さあ、今日は美保関まで行って泊まろう。野波、瀬崎、笠浦、千酌、七類、法田などの漁村を繋ぎながら美保関を目指す。海はあくまで美しい。
自転車の調子が悪い。歯飛びだ。チェーンが伸びたのか、ギアの歯がちびてきたのか。坂道でペダルを踏むたびにガクガクして力が逃げてゆく。不愉快限りない。もう早く旅を終えたい。
日本海側から南へ最後の峠を越えて美保関に到着。
峠の地蔵さん |
観光案内所で宿を紹介してもらう。美保関神社のすぐ傍の旅館が、本館から歩いて5分ほど離れた別館に案内される。「ヘルンの小窓」と名付けられた古民家だ。ラフカディオハーンがこの町に何度か滞在したらしいが、この家かどうかは分からない。
荷物を置いて島根半島の東端、地蔵崎に向かう。これで西から東まで島根半島を走ったが、途中をはしょった感じは否めない。
今夜の宿 | ヘルンの小窓 |
地蔵崎 | 灯台 |
美保関は二度目だ。大学一年の冬休み、帰郷(四国徳島)の前に友人と山陰旅行をしたのだ。ちょうど六十年前か。夕方、バスを下り立ったところ、大勢の客引きに取り囲まれ、小生と友人の荷物はバラバラになった。それで二人の客引きと交渉して安い方に泊まったのだった。後は何も覚えていない。
9/12 朝の散歩。
仏谷寺:後鳥羽上皇や後醍醐天皇が隠岐に流される時滞在したとのこと。
青石畳通り:古い町並みが美しい。
美保関神社:出雲大社の大国主命の子、事代主命(恵比寿)を祀る。
仏谷寺 | 青石畳通 |
青石畳通 | 青石畳通 |
美保関神社 | 美保関神社 |
港 | 港(正面に大山が見える) |
荷物を宅急便で発送し、空荷となって米子駅を目指す。
有名な関の五本松に寄ってゆこう。昔の街道沿いということだが、海岸沿いの道から100mも上らねばならない。昔は海岸沿いは通れなかったらしい。上ってみると、松はもうない。一本は切られたのは歌の文句にあるが、後の四本も枯れたり、台風で倒れたりして、今残っているのはコンクリートで造った松の切り株模型のみ。上ってきて損した。眺めがよいのがせめてもの慰めだ。
境水道にかかる大橋を越え境港に入り、海鮮市場で土産を少々。昨日通った十六島の海苔とイカの塩辛がとても旨かった。
後は弓ヶ浜を快走して、」米子駅に到着。特急にかろうじて間に合った。
五本松から境港を望む | 伯耆大山 |
境水道大橋 | 海鮮市場 |
弓ヶ浜 | 弓ヶ浜のサイクリングロード |