宮崎県の二河川を走る 2022.04

 4/15 8時、宮崎フェリーで宮崎港に到着する。相当なボロ船だった。近いうちに新造船に変わるらしい。出発する時、ヘルメットを忘れてきたことに気がつく。まあ、いいか。トロトロ走るのだし、今までヘルメットに助けて貰ったこともないし。
 海岸沿いに北上して、まず佐土原を目指す。阿波岐原森林公園の中を通り抜けて行く。阿波岐原といえば伊邪那岐、伊弉冉の命がみそぎを行い大祓の神々が生まれたと言われる神話の地だ。このところ、先月行った宇治川の佐久奈度神社(先月の「草原の独り言」参照)、これから向かう一ツ瀬川の速川神社といい、大祓の神々に縁がある。さらにシーガイアを抜け、佐土原市街へと入る。民家にある黄色い花が満開の木は台湾で見た木なのでは?
 佐土原は島津氏の支藩があったところだが、今回ちょっと寄ってみたかったのは私の愛読書「大江戸 泉光院旅日記(石川栄輔著)」の主人公、野田成亮の居住地であり、墓に手を合わせたかったからである(この本について、このホームページの「草原の独り言」2020年4月に紹介していますので興味のある方は覗いてみてください)。さて、墓の場所は大光寺という寺の裏にあるということは本に書いてあったし、佐土原駅にあったパンフレットの地図にも記されてあったので、大光寺を訪れた。この寺も佐土原島津家の菩提寺でなかなか由緒ありげな寺院である。ところが肝心の墓の場所が判らない。その辺りをウロウロするが何の標識もない。通りかかった人に聞いても知らない。パンフレットに書くぐらいなら標識ぐらい立てておけよな。諦めようかと思ったが、最後にお寺の人に聞いてみようと玄関のベルを鳴らすと出てきただいこくさんが入り口まで案内してくれた。そこから草を分けて踏み跡を辿り、少し山道を登るとやっと泉光院さんの墓の前に出ることが出来た。感無量。

   
 宮崎フェリー 一つ葉有料道を沿いを北上する 
   
 ハマエンドウ? 阿波岐原森林公園 
   
黄金風鈴花? (台湾で見たのに似ている)  大光寺
   
大光寺の石仏   野田泉光院の墓

 さて、次はお隣の西都市を目指す。墓探しで大分時間を潰したので、急がなくては。ここでは昔訪ねた西都原古墳群を再訪するつもりだが、先に昼食にしよう。この辺りで有名なウナギ料理の入船に入る。なかなか旨い。付いてきた呉汁なるものを初めて食べたが、ここは肝吸いの方がよかったな。食後、店の前の南方神社にお参りする。天然記念物の楠の巨木がある。
 西都原古墳群の丘陵へ駆け上がる。以前来たのはもう四十年以上前だったろうか。ゆっくりする暇もないのでグルッと一周する。ツツジが鮮やかである。ニニギの命、コノハナサクヤヒメ、大山祇命などの古墳と言われると神話の世界が現実にあったような不思議な気分にさせられるところである。

   
   南方神社
   
西都原のミツバツツジ  男狭穂塚、女狭穂塚 
   
鬼の窟古墳   

 一ツ瀬川に出て、R219で上流を目指す。小雨模様となってきた。次に速川神社を目指す。道路脇に石像がある。ここが神社への入り口だ。神社へは潜水橋で対岸へ渡って800mほど山へ登って行かなければならない。ちょっと躊躇するが、いきさつから行かないと祟りがあるかもしれない。ビンディングシューズは滑るのでゴムの滑り止めを付ける。トロトロと滑りやすい道を上って行くと神社に着く。道沿いに廃屋があったが、ひっそりとしたたたずまいだ。人気もない。玉を持った龍の像が流れの傍に祀られている。大祓詞によると速川の瀬に居ますのは瀬織津比売だが、そのほかの祓戸神々も一緒に祀られているようだ。さあ、これで我が身の罪汚れも大分洗い流されただろう。
 上流へと走って行くと、アレッ、また祓戸の神様を祀っている神社が現れた。速開津比売(ハヤアキツヒメ)神社という。なんかちょっと胡散臭いな。この神様は瀬織津比売が飲み込んだ罪汚れを大海原で受け取る神様だろう。なんでこんな上流に居るんだ。まあ、これもお参りしておこう。吊り橋を対岸に渡るとすぐだ。青い鳥居にちょっとびっくりする。すぐ脇にある滝は禊ぎをするのにちょうどよい。すぐ上に速開津比売から受け取った罪汚れを根底国へ吹き送る気吹戸主を祀る祠もある。神々しい雰囲気のある場所だ。
 雨は止んできたが、もうそろそろ5時だ。適当なテントサイトはないかな。一ツ瀬ダム湖畔の広場にテントを張る。

   
一ツ瀬川   瀬織津比刀iセオリツヒメ) 
   
速川神社へと潜水橋を渡る  速川神社 
   
白フジ 
   
速開津比売(ハヤアキツヒメ)神社   
   
一ツ瀬川  広場でテント 

 4/16 今日は快晴だ。5時半、出発。この辺りは旧東米良村だが、西都市と合併したらしい。ダム湖にイカダが浮かんでいる。何かを養殖しているようだ(後で鯉の養殖と聞いた)。長いトンネルを抜けると西米良村に入る。川に奇妙な橋が架かっている。カリコボーズ橋といって木製車道橋としては日本最大とのこと。カリコボーズとは西米良に住む精霊でカッパとかザシキワラシとかのようなものらしい。村の中心部に入るが早朝のこととて店は開いていない。ここで西から東へと向かうR219は南北に走るR265とクロスする。2010年に九州縦断サイクリングではR265を通ったのだが、あのときはここの酒屋で酒を仕入れたのだった。
 さて、ここから4kmほどはR265との重複区間を走り、R219は板谷川を遡り、熊本県へとはいってゆく。R265は尾俣峠を越えて、綾北川水系に入る。この一帯は宮崎県でも最も人口密度の薄い地帯ではないかな。R265はなかなかの酷道だったが、R219はよい道だ。集落はほとんどないが熊本県の湯前と米良間を路線バスが走っている。吐合の谷通しに二百名山の市房山が望める。
 現在、R219は横谷トンネルで熊本県に抜けるが、ここは趣向で旧道で横谷峠を越えたい。例によって、入り口には通行止めの標識が立っているが、道はそれほど荒れていない。トラックが上って行く。行けるところまで行ってみよう。ダメなら引き返せばよいさ。たいした上りもなく、横谷峠に到着する。廃屋が数軒あるのみで生活の気配はないが近くに何かの作業場があるらしくトラックの出入りがあるようだ。地図で見ると熊本県側は旧国道が長く続いているようだ。下って行くと軽トラックが止まっていて、尋ねると、この先は道が荒れているのでここから林道を下るのがよいとのこと。林道を急降下するとトンネルの出口で現国道と合流した。

   
湖上の養殖施設  西米良村に入る 
   
カリコボーズ橋  村の中心部 
   
市房山を望む  新緑の山
   
旧道を登る  横谷峠 
   
廃屋  トンネル出口に下ってきた 

 ここから湯前町市街地までは大下りだ。標高差300mを一気に下る。町について先ず昼飯だ。朝食を抜いていたのでもうたまらない。満腹して、スーパーで食料を仕入れる。くま川鉄道湯前駅をみて、球磨川に沿って県142をたどり不土野峠を目指す。市房ダムにが見えてきた。正面に市房山が聳えている。名山の風格がある。ここから分水嶺を越えて宮崎県に入るには、R388で湯山峠を越える道もあるが、今回は不土野峠を越えて耳川上流からぼんさん峠(椎葉越)でもう一度分水嶺を越えて再び熊本県五家荘に出るという野心的な計画だ。道はなだらかに球磨川を上って行く。古屋敷という集落で球磨川本流と別れ右に支流に入る。途端に急な上りとなる。正面、見上げると中腹に白く滝が見える。白水滝(雌滝)だ。吊り橋が滝を横切っている。あそこも観光地として有名なようだ。
 この辺りから、坂道が苦しくなってきた。大分体力が衰えている。もう、たまらん。歩こう。ここからは押し歩き半分、漕ぎ上がり半分だ。道は平谷川から小尾根を乗り越して魚帰川に沿って上って行く。きれいな渓流だ。地形図で平畑(たいらこば)というところまで来た。今は廃村だ。まだ3時で快晴だが、もうしんどい。ちょうど道脇は水田跡で今は林となっていて、キャンプにピッタリの場所だ。ここでのんびりしたい。ちょっと走ってのんびりキャンプする。もうそういう年齢なんだ。標高1000mの不土野峠でこんなに苦労するのに、標高1500mのぼんさん越えはとても無理。
 ここでダウン。林の中にハンモックを吊して昼寝する。風が爽やかで気持ちがよい。しばらくウトウトして、寝ぼけてここは何処だなんて。

   
湯前駅  駅前にて
   
 市房ダム  ダム湖と市房山
   
 県142と球磨川源流 白水滝(雌滝)遠望 
   
 不土野峠への道・新緑  テントサイトで昼寝

 4/17 今日も快晴だ。ぼんさん峠を諦めるとなると、時間が余る。昨日見上げた白水の滝に行ってみよう。空荷で滝まで往復して、それから不土野峠を越えて椎葉へ下り一泊しよう。
 4kmほど引き返し、林道を駆け上がると白水自然森林公園に着く。結構きつい上りだった。公園の入り口にはシャクナゲ園があり花盛りだ。白水雌滝の真上を横断して白龍妃橋が架かっているが、あまりに真上過ぎて滝が綺麗に見えない。橋から見下ろすと、昨日滝を見上げた古屋敷の集落が見える。少し山道を辿ると今度は雄滝と白竜王橋だ。こちらの方は岸壁は雄大だが水量が少ない。静かな遊歩道を散歩したが、苦労して上がってくるほどのことはなかったか。

   
キャンプ地の朝  シャクナゲ園 
   
 シャクナゲ園 白水の滝(雌滝) 
   
白龍妃橋  白龍妃橋より見下ろす 
   
白竜王橋  白水の滝(雄滝) 

 キャンプ地まで戻って、不土野峠を目指す。ところがこれが意外となだらかでアッという間に峠に到着した。しまった。朝一番に出発していたら、予定どおりぼんさん峠越えが出来たかも。
 峠の下りはあまり書くこともない。快調に走って耳川上流のダム湖に出て、ぼんさん峠への道を分けて、2時過ぎには椎葉村の中心部に出てきた。今日は宿に泊まって、ゆっくりしよう。幸い鶴富屋敷の主が経営している旅館が隣にあり、そこへ入ることが出来た。まあ、アコモデーションは民宿並みだが値段もそれ並みだった。山菜や川魚の料理が最高に旨かった。

   
不土野峠への道  対岸の新緑 
   
不土野峠  駄馬で荷物を運んだ道跡 
 
奥椎葉橋から国見岳辺りを望む 
   
椎葉へ下りて初めての集落  不土野川沿いの県道 
   
日向椎葉湖  上椎葉ダム 
   
 鶴富屋敷 今夜の宿 

 4/18 野営道具などを宿から宅急便で送り、軽装で出発する。今日は耳川を下り、河口の美々津に出て、海岸沿いに南下して宮崎に出て、フェリーに乗る予定である。
 7時、宿を出発。町はまだひっそりとしている。振り返ると鶴富屋敷の大屋根が群を抜いて大きい。川に沿って下って行くので快調に飛ばして行く。椎葉村を過ぎると次は諸塚村だ。中心部の土産物屋で昨夜食べて美味しかった乾タケノコを買う。諸塚村といえば2017年の春、大分・宮崎サイクリングで六峯街道を走った時、桂、立岩などという諸塚の集落を通ったな。
 日差しが強くなってきて、半袖の腕が日に焼けてヒリヒリしてきた。坂本という集落で見事なツツジを見る。花の下で大休止。
 快調に走って大分下流まで来たぞ。突然、肩にザックがないことに気がつく。しまった、ツツジの花の下に置き忘れてきた。あれから大分走ったぞ。元気なく引き返す。8kmも走っていた。往復16kmの余計な走行にガックリしながらも、耳川の穏やかな流れに沿って景色を楽しみながら下って行く。

   
椎葉市街  鶴富屋敷と右側の宿 
   
耳川に沿って下る  諸塚村中心部 
   
 民家のツツジ 民家のツツジ
   
耳川風景 耳川風景 

 きれいな藤棚の下でもちょっと休んで、美々津到着。美々津は回船業を営む商家が立ち並ぶ港町として栄え、現在は重要伝統的建造物群保存地区になっている。今は往時の繁栄は見る影もないが、ひっそりと昔の町並みが残っている。旧市街を一周して海岸に出る。ここは神武天皇が九州から近畿へ出征した時船出した場所なそうな。それで日本海軍発祥の地と称されている。まだ頑張れば、宮崎まで辿り着けるかもしれないが、余計な走りですっかり気が萎えた。もう美々津駅から輪行しよう。ということで美々津で今回のサイクリングはお終いとなりました。

   
藤棚  美々津市街 
   
 美々津市街  美々津市街  
   
  美々津の海岸