草枕


雪のごと街に柳の花ふりて初夏の瀋陽日ざしのどけし 中国・六首


瀋陽の沈む夕陽をながむれば悠久の地に来たる思いす


西安の永き歴史をたどりたり楊貴妃偲び茉莉花茶飲む


你好
(ニーハオ)を習いてようやく五年目の今日中国にたどりつきたり


果てしなき天安門の前にたてば過ぎにし昨年の事の思ほゆ


空海の来たれる寺に麦肥えて大雁塔を遥けく望む


雪残る飛騨の山道たどりゆけば穂高乗鞍御岳の見ゆ


高山の古き家並たずぬれば昔の人に会う心地する


月ヶ瀬の五月の月の煌々と山荘の灯を消してながめむ


山の端を大いなる陽のかけのぼり天地一瞬くれないに染む


うぐいすの声夢に入る朝ぼらけむら竹渡るかぜもかそけき


わらび萌ゆる道の片辺
(かたえ)のすみれ草花の言葉を誰か伝えむ


茶畑に芽ぶく緑の柔らかし五月の風に自然児になる


阿波の国海部の町に帰り来ぬ四十年の旅路の果てに


常春の故里旅のなつかしき浜辺に寄する四国の白波


なき人を偲び故里訪ぬれば鳥の声にも涙流しぬ


山河に共に遊べる故き友顔かわれどもなどかなつかし


妙見の鎮守の森の椎の木に子供心に帰り実ひろう


よき人の心づくしの阿波のすし柚の香かおり口に広がる


小石川薗のかえでの葉の紅み鳩追う子らのほほも染りぬ


万葉の笠の金村歌に詠める角鹿
(つぬが)の浜は父母の故里


なつかしき気比の松原もとおればいにしえ渡りし常宮の見ゆ


夕陽さす松原の海ながむれば行方の知れぬ人の思わる


わがどちを近つ淡海にいざなえり霧に霞むは神住む竹生


余呉の湖
(うみ)夕陽沈める山の端へねぐら求めて鳥の群れ飛ぶ


スケッチする君の手元を過ぎ行きぬ夕風渡る余呉の湖面
(おもて)


何処へと問えど答えず観世音我が行く末を知りたまわずや



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