やまんなか縦断が山形県で少し途切れている。それが気になっているというわけでもないが、いずれにせよこの辺りで少し西に偏っていることは否めない。そこで盲腸のように突き出ている米沢から北に延ばしてどこかで繋ぎ直そうと考えた。一応田沢湖辺りを目標にして適当に走ろう。絶対に入れたいのは栗駒山の須川温泉だ。

 8月24日(金) 早朝、車で自転車と荷物を新大阪まで運び、一階のコンコースに置いて帰り、空荷で家を出発する。家内が運転しないのは実に不便だ。
 山形新幹線に乗るのは初めてだ。福島・山形県境の峠駅辺りの風景に心惹かれる。この辺りも走ってみたいところ。
 米沢には昼頃到着。下りてみると結構暑い。大阪とたいして変わらない。早々に出発して北に向かう。高畠町までは米沢盆地の中の平らな道をひた走る。途中、天満神社の灯籠と赤い橋に心惹かれ、お参りをと思うがここは先を急ごう。所々、リンゴや洋梨の畑があり、美味しそうに実を着けている。
 高畠町。スーパーで今夜と明朝の食料(総菜)と酒を仕入れる。ここからR113(七ヶ宿街道)を東へとり、二井宿から峠を越えて宮城県へ入る。途中、安久津八幡が由緒ありげなのでちょっとお参りする。二井宿。ここが山形側の最後の宿場である。ここから峠までは旧国道が通っているので、これに入ろうとしたが上の方で崩落していて人も通れないとのこと。やむなくトンネルの新道を上がって行く。10名足らずの男女の大学生ツーリストと一緒になる。ひ弱そうで大した坂でもないのにヨタヨタと登っている。

   
天満神社の常夜灯   天満神社の橋
   
洋梨   安久津八幡の塔
   
安久津八幡境内  二井宿 
 
二井宿トンネル  二井宿峠とツーリスト 

 二井宿峠546m。奥羽山脈を越える峠で最も低く、昔から日本海側の諸大名の参勤交代で賑わったらしい。宮城県側は七ヶ宿町。白石川に沿ってなだらかな下り道が続く。白石の町までに七つの宿場があったのだろう。所々に由緒のありげな建物がある。
 町の中心で林道を少し上ったところにテントを張る。

   
七ヶ宿入り口  第一の宿場 
   
七ヶ宿の元締・安藤家   テントサイトの夕焼け

ルート図(第一日)


8月25日(土) 昨夜は暑苦しく、寝袋を蹴飛ばして寝ていた。
 ここから県道51号線を北へと進む。こんなところを東新潟−仙台送ガスパイプラインが通っている。以前にも小国町近くでであったことがある。
 道は高原に登り、長老、不忘といった開拓部落を通って行く。上り下りが多く結構苦しい。まわりは牧草地が多い。右に分かれる道がある。これを下ると白石の鎌先温泉に通じているようだ。以前、阿武隈山地をサイクリングした時、旅の終点とした温泉だ。湯治場の風情を残していてなかなか趣のある宿だった。

   
朝靄の七ヶ宿  送ガスパイプライン
   
 月見草 蓮の花 
   
白石市に入る  牧場 


 R457(羽後街道)に入る。今日明日はこれを辿ることになる。少し北に進むと遠刈田温泉。ちょっとR457を外れスズラン峠を越え、釜房ダム湖を廻り再びR457へ。あれっ、仙台市に入った。奥羽山脈から東に離れていっている感じ。秋保の町で雨に遭う。神社の境内で雨宿り。小さな峠を越えるとそば屋がある。ここで昼飯。なかなか旨い。笛という店の名は主人の姓とのこと、由緒ありげな。
 R48(作並街道)に合流。仙台市と山形市を結ぶ主要国道だ。交通量が多い。暫くこれを走らないと次のR457に出られない。車道を走ったり、歩道を走ったりと鬱陶しい。愛子(あやし)の町で近道しようとして、ウロウロして道に迷う。ようやくR457に再会して、暫く走ると激しい夕立。これは堪らんとバス停に逃げ込み雨宿り。近くにホテルでもないかとスマホで調べるも大分離れている。

   
遠刈田温泉  蔵王山系 
   
 スズラン峠への道 釜房ダム湖 
   
仙台市に入る  路傍の石塔 
   

 小降りになってきたので、どうせもう濡れていることだしと、出発する。近くに適当な公園でもあったらテントを張ろう。
 仙台市から大沢町に入ったところ、宮床ダム湖畔に小さな公園がある。ここで泊まろう。もう走る元気が失せた。荷物を下ろしてテントを張ろうとすると、雨が止み日が射してきた。なんとまあ。まだ日は高い。ノンビリ昼寝でもしよう。

   

 水がペットボトル一本しかない。今晩はエナジーバー2本の夕食だ。


ルート図(第二日)


8月26日(日) 坂を下ったところのコンビニでサンドイッチと牛乳の朝飯。久しぶりの牛乳がはらわたに滲みる。今日は何処まで行けるかな。もう、あまり距離を稼ぐ気は無くなったが、少なくともどこかで秋田県側に入ってルートを繋がなければならない。
 この辺り、R4がすぐ傍を並行して走っている。数百メールしか離れていない。R457をまっすぐ北へ走ると岩出山。ここは伊達政宗が仙台に移る前に本拠を置いた地だ。公園で一休みしていると、またパラパラと雨が降ってきた。天気予報を見ると雨の確率80%だ。明日は60%、明後日は80%。心は暗くなる。
 小雨の中を走り出す。R47に合流。これは北羽前街道といって大崎市から新庄市に向かう国道だから昨日のR48程の交通量はない。雨に打たれながらトボトボと走る。「ア・ラ・伊達な道の駅」に着く。一休み。冷房が効いて、濡れた体にが寒い。不味いうどんを食べる。
 11時前に鳴子温泉に到着。ここから先は山の中に入って行く。もう止めた。雨の中、山を走る気はしない。温泉でノンビリしよう。案内所で安い宿を紹介してもらうが、チェックインは3時だ。小さな温泉街を一廻りして、駅の中にある図書室で時間を潰す。

   
江合川(岩出山付近)  鳴子温泉入り口 
   
 鳴子温泉駅 温泉街

 宿は値段の割には部屋もよし、温泉はまあまあ、食事はよし、酒は旨しでいいコスパだ。

ルート図(第三日)



8月27日(月)  今日も曇り空だが、雲が高い。何とか持つかな。
 予定では荒雄岳を半周してR398へ上り、栗駒山の須川温泉に向かう予定であったが、こうも天候が不順では雨の場合簡単に逃げられるコースが望ましい。ここから西へ向かうとしたら、R47で山形県の新庄へ向かうか、R108で秋田県の秋ノ宮から湯沢に向かうかであるが、R47はさすがに簡単すぎる。R108を見ると、通行止めとなっている鬼首峠を越える旧道・仙秋サンラインを通るのが面白そうだ。そうそう、秋ノ宮からは小安温泉へ向かう県道で川原毛地獄へ行けばそこでルートが繋げるぞ。前回、入れなかった川原毛大湯滝もリベンジだ。これでコース決定。栗駒山は次の機会にしよう。
 宿を出てすぐ橋を渡りR108旧道を鬼首温泉に向かう。坂を登ると鳴子ダムだ。この辺りは紅葉の景色が有名なところだ。ダム湖畔を行くと鬼首温泉郷だ。のどかな景色だ。間欠泉もある。しまった昨日ここで泊まればよかった。

   
 鳴子温泉遠望 鳴子ダム 
   
鬼首温泉入り口   鬼首辺りの江合川
   
禿岳?  ソロソロ夏も終わりかな 

 R108の旧道分岐点に来た。大きなゲートが閉じられている。荷物を下ろせばゲートの脇を通り抜けられる。通り抜けて出発しようとすると、上からトラックが降ってきた。土地の人は利用出来るようだ。2車線のしっかりとした舗装道路が緩やかに上ってゆく。流石にナンバーの若い国道だけのことはある。所々、倒木や土砂が崩れているところはあるが1車線分は通行出来るようにしてあり、自転車は楽々通れる。やがて鬼首峠(820m)に到着。少し整備して、せめて新緑と紅葉の季節だけでも観光用に解放すればよいのに。 秋田県側の空は明るく、気分も上々だ。秋ノ宮に向かっての下りも順調である。長いトンネルを抜けると工事用車両が10台ほど並んで谷川から流れ出た土砂を取り除く作業をしている。してみるとこの道もほったらかしということはないのだ。赤倉橋を渡る。下を見ると林道が赤倉沢沿いに通じている。ここは丁度20年前、虎毛沢を遡行中、滝から滑落して骨折。何とか赤倉沢まで這い下りて、担架で運ばれたところだ。感無量。
 あっという間に秋ノ宮側のゲートに到着。ここは簡単にすり抜けられる。

   
旧R108入り口  荒雄岳 
   
   
   
こんな格好で走ってます (短足やなー) この程度に荒れているところもあります 
   
 鬼首峠 キンミズヒキ? 
   
キクイモ?   シシウド
   
赤倉橋  橋の下の赤倉沢と林道 

 新道と合流してしばらく下ると、稲庭うどんの看板が出ている。少し早いがここで昼飯としよう。日本三大麺の一つだ。稲庭山菜天ぷらうどんというのを取る。出てきたのはたっぷりの稲庭うどんと大盛りの山菜の天ぷらである。つるつると喉越しのよいうどんだが、やっぱり大坂人には讃岐うどんのほうがいいかな。ついでにサクの煮付け(100円)も追加注文。サクというのはエゾニュウというシシウドの仲間の山菜でウドとたいして変わらない。そう言えば、真昼岳でこれを採っている人を見たことがある。
 若いお姉さんが出てきて、これから何処へ行くのかと聞く。川原毛へ向かうというと、すごい坂道で車でも大変だという。県境の峠を越えてきた身にとっては大したことはなかろうと高をくくる。

 
 稲庭うどん、山菜天ぷら、サクの煮付け(左下)


 少し下って、小安温泉に向かう県道に入る。なるほど急坂であるが、舗装状態は大変良好だ。ただ上の方で地熱発電所建設工事をやっていて、工事用車両がひっきりなしに通る。ダラダラと登ってゆく。もう標高800mを超えたぞ。まだ登るのか。GPSを見ると、最高地点は1000mを超えている。分水嶺の鬼首峠よりも200mも高いところまで上がるのか。こりゃ大変だ。道沿いに長いパイプが延々と建設されている。地熱発電ってどういう原理なんだろうな。
 ようやく最高地点を越える。ここから川原毛地獄まではあっという間の大下りだ。少し下ると川原毛地獄の奇観が見えてくる。地獄の上部に到着。ヤレヤレ、これで「やまんなか縦断コース」と繋がった。こんな山奥で繋がるというのもちょっと感激的である。
 ここで下から登ってくる道が工事中で今年いっぱい通行止めだと知る。下の駐車場まで山道を下って前回の処でキャンプしよう。大湯滝に入るのが楽しみだ。
 大湯滝入浴の話は「我流温泉記」に書いたので、ここには書かないが、ちょっと面白かったので覗いてみて下さい。

   
センニンソウかな?   地熱発電所工事
   
川原毛地獄   
   
駐車場上の東屋  駐車場下の源流 


ルート図(第四日)


8月28日(火) 夜中から雨になった。大分涼しくなって、寝袋の中でゆっくりと寝られた。
 さて、道路工事が始まるにしても8時以降だろうから、それまでに下ればいい。雨の中ソロソロと下ってゆく。工事現場。たかが林道に毛が生えたような道に大げさな工事をしている。路肩をちょっと直せばよいだけだろうに。荷物を下ろして、まず自転車を脇の踏み跡のようなぬかるみをソロソロと運ぶ。あとは荷物。危険ではないが、滑るとどろんこになる。
 無事に通り過ぎると三途川というところで、県道に入る。この辺りで雨も止み、一路湯沢の町を目指す。9時前に湯沢駅到着。町中の温泉に入って、旅の汗を流して着替える。それから近くのコンビニで荷物を家に送る手配をする。ここで輪行バッグをどこかに忘れたことに気がつき、どうやって自転車を運べばよいのかとパニックになる。
 駅の観光案内所の3人の女性が総掛かりで輪行袋を売っているところを探してくれたが、こんな田舎町では見つからず、どうも秋田市まで行かねばならないようだ。そのうち、一人のお姉さんが知恵を出してくれ、大きなビニール袋を売っているところを探し出してくれた。これに包んでやっと大坂へ自転車を持って帰ることが出来た。

   
雨の林道   
   
三途川   


ルート図(第五日)