折々に


夕されば庭のうぐいす鳴きにけり春まだ浅きひとりみの家


やわらかき日ざし満ちたる春の日に桜をあらう松川の水


松川の川面に映ゆる桜花別れの春に出で立つ乙女


青さぎの巣をかけわたす春は来て護国の杜に新緑の萌ゆ


春の午後長き会議に倦み果てぬ窓に映るは桜か桃か


はなみずき咲きて乱れる並木道その紅に染まる我かな


松川の川面にただよう槐
(えんじゅ)の香橋を渡りて家路たどりぬ


雲のごと白きむくげの花びらのほろりとゆれてひとひら散りぬ


秋雲に陽の隠れ行き肌寒きプールに浮かぶ蝉の悲しき


野分すぎ池に散りたる榎の実泳げる鴨の羽も乱れぬ


野分すぎ庭に落ちたる鈴かけにかけし思いをいかにとぞせむ


秋の夜のピアノの音色胸にしむ我が手未だにつたなけれども


うまざけの越の都の夕まぐれ艶ある花に心乱れぬ


秋澄みて冷たきバナナ歯にしみぬふと遠き日を憶い出でたり


古き家のこけむす庭をたずぬれば秋の実落ちてゆかしと思ほゆ


寒空に背をかがめたる人の群れ秋の末早や春待つ心


奥山に雪降れるらし年の暮透き通りたる空気肌刺す


独り寝の白々明けてつららかな雪踏む音のかすかに聞こゆ


ふる雪のたかくつもれる有明に来鳴くうぐいす身もふるえつつ


駿馬駆り帰り来る夜の天空に赤き月出ず炎の色に


春さればいずくに吹くか沈丁花宵の窓辺にはつかに香る


永き日を勤めたる人退けり時流るれば我は如何にか


渋き顔うれしき顔をとりまぜて異動の一日挨拶に暮る


長雨にプラタナスの芽ふくらみぬぬれぼそちたる選挙のポスター


ジョギングの人は夕陽に向かいたり電線赤く光れる下を


ピアノ弾き独り過ごせる誕生日かくて三年となりにけるかも

 

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